音楽雑文集


by yyra87gata

『ランニング・オン・エンプティー』  ジャクソン・ブラウン

 『レイト・フォー・ザ・スカイ』(1974)は、シンガー・ソングライター・ブームを代表する1枚であるし、ジャクソン・ブラウンの初期の作品を総括する意味でとても重要なアルバムである。このアルバムを制作する直前に子供が生まれていることも少なからず影響しており、詩にこだわり、曲はあくまでもシンプルになっている。「生きる」とは!「男と女とのつながり」とは!
ピアノとギターを中心とした構成で、淡々と進んでいく。但しどの曲も重く、1曲目のタイトル曲は悲しい失恋の歌であるが、単純に男と女が別れると歌っているわけでなく、「2人の思い出が崩れていく・・・」といった悲壮感が漂っている。よくもまぁこんな重い曲を1曲目にしたなぁと思うほどだ。同じことが「The Late Show」という曲にも言える。別れの情景を描いた作品だが、エンディングで車のドアの閉まる音の後、走り去る車のエンジン音が曲を盛り上げる。もう、何かの映画を見ている気にさせられ、空しさだけが残るのである。
 僕は高校生の頃、ジャクソン・ブラウンに憧れた事がある。音楽ではなく、あのサラサラの髪の毛だ。僕の髪は太くて固くて多いので、ロングヘアーにするとヘルメットのようになってしまう。ジャクソン・ブラウンのサラサラとなびく髪は憧れであった。そして、落ち着いたメロディーを歌い上げる様など、僕に無いところばかりだった(たくろう好きはガナってナンボだかんね)。
しかし穏やかな好青年に映るジャクソン・ブラウンではあるが、芯はとても強く、完璧主義者である。完璧主義者であるがゆえに音作りに没頭し、1976年に正式に結婚したばかりの奥さんを「自殺」という形で失っている。この事件は彼自身相当ショックだったようで、その当時のアルバム『ザ・プリテンダー』(1976)に音という形で表れている。


 
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そんなジャクソン・ブラウンは、旅の多いことでも有名で、ライブも精力的に行っていた。彼の音楽生活のヒトコマを音にしたアルバムが『ランニング・オン・エンプティ』(邦題:孤独なランナー)(1977)である。音楽生活と記したのは、このアルバムはコンサートの音はもちろん、移動バスの中の音や、ホテルの一室で行われるリハの模様も収録されており、ドキュメンタリー性の高い作品に仕上がっているからだ。また、聴きこんでいくと、ツアーを人生になぞらえてみることもできる。
ジャクソン・ブラウンの詞の特徴は万民に対するメッセージというより、内省的で日記のような詞が多い。しかし、その内容はあくまでも前向きであり、希望を持たせる詩が多い。「生きる」ということについての問いかけは、彼のソフトな印象とは裏腹にかなり鋭く描かれた作品も多い。彼にとって「歌う」ことは「生きる」ことであり、ライブはまさに「生き様」の場所なのだ。だから、このアルバムに収録されている作品は、それまでのどの作品よりも力強い作品が多いことが特徴だ。「生きている」ことに感謝しながらコンサートは進む。
このアルバムのラストに収められている「The Load-Out」と「Stay」のメドレーは、ずばりコンサートツアーというものを題材にした曲である。以前、生でライブを見た時、最後のこのメドレーでジャクソン・ブラウンはバックミュージシャンを紹介し、スタッフ(照明やミキサー、ローディーなど)が全員入れ替わり立ち代りでコーラスに参加した。観客への感謝だけにとどまらず、スタッフへの感謝も忘れないところが彼らしいと思ったものだ。
ちょっと落ち込んだ時『ランニング・オン・エンプティ』を聴くと、元気が出てくる。がんばらなくちゃ、と思う。そして、走り続けるために聞き続けるアルバムなのだ。

2005年7月22日
花形
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by yyra87gata | 2012-12-15 08:18 | アルバムレビュー | Comments(0)