音楽雑文集


by yyra87gata

『魔法の黄色い靴』  チューリップ

 ビートルズの歌の中で好きな歌は何か?と質問されたら、あなたはどの歌を答えますか。
「Let It Be」「Hey Jude」「Yesterday」「Please Please Me」「Can’t Buy Me Love」・・・。ビートルズの歌はどの歌も人気がある歌ばかりですが、上位に並ぶ歌はきっと見たことがあるような歌のタイトルが並ぶのでしょう。
でも、私はこの質問を受けたチューリップの財津和夫の答を忘れることができません。雑誌のインタビューやプロフィール紹介で何度も同じ曲名を見たことがあるので、本当の答だと思います。
その曲は、「Your Mother Should Know」です。
『Magical Mystery Tour』(1968)に収録されている、あまり目立たない歌です。メランコリックなメロディーで、映画<マジカル・ミステリー・ツアー>の中のエンディングで、4人が白いタキシード着て、歌いながら踊っている印象的なシーンで流れた歌です。
チューリップの歌を聴く時いつも思うのは、チューリップはビートルズに感化されたバンドとして紹介されがちですが、しっかりと自分達の音楽を見失わなかったアーティストだということです。ビートルズが好きだからといってデビューできるわけでもありませんし、ビートルズと同じようなことをやっていても売れるわけはありません。何といってもチューリップはメンバーチェンジや解散、再結成など繰り返しましたが、34年も続く現在も現役のバンドなのですから。
 チューリップの音楽性については、財津和夫の音楽センスに依るところが大きいと思います。それはビートルズの「Your Mother Should Know」を持ってくるあたりのセンスです。
デビューの頃、チューリップはそれまでのフォークブームやアンダーグランドな日本のロックのグループとは違い、どちらかというとアイドルグループ的な扱いを受けていたことが当時の雑誌から伺えます。パンタロンに、こぎれいな衣装をまとい、女の子の黄色い歓声の中でコンサートを行っている記事が数多く見受けられます。私が意識し始めて聞いた頃は、さすがにアイドルグループではなく、オフコースと人気を二分していた実力派グループになっていましたが・・・。
 
d0286848_20181913.jpg

 チューリップは『魔法の黄色い靴』(1972)でデビューしましたが、タイトル曲は今聴いても斬新な作りの歌です。フォークギターのコード進行では考えられませんし、特徴的な転調など魅力的な作品です。フォーク全盛の頃にこの曲で勝負に出たチューリップは只者ではありません。
他にも、「千鳥橋渋滞」「あいつが去った日」「ハーモニー」など、名曲揃いのアルバムです。
チューリップの歌の特徴は歌唱法ひとつとってみても斬新です。それまでの“きれいに歌う”という流れではなく、洋楽的なアプローチがいたるところに見受けられます。例えば「千鳥橋渋滞」の“髪を切ってしまおう”の部分の歌唱は、発音が通常の話法のそれとは異なります。“髪”を“神”や“上”の発音に聞こえるような歌い方はそれまでの日本の歌に例は無く、違和感があります。また、「あいつが去った日」の出だし部分の“新しい僕らの夢を・・・”を“あったあらあしい僕らの夢を・・・”と歌いまわす方法は、曲を重視したノリの良いポップミュージックに詞を合わせた結果と思われます。
 但し、レコーディングは大変だった様で、リットーミュージック(事務所)の先輩だった「つのだ★ひろ」がドラムを助太刀してやろうか、と声掛けしたほど演奏がアマチュアっぽかったようです。最終的にこの話は断り、メンバーだけでレコーディングしたようですが、なんとギターの安部俊幸はエレキギターを持っておらず、フォークギターにマイクをつけたもので対応していたようです。
財津のジレンマはこの名盤が売れず、1年後に姫野達也のヴォーカルで「心の旅」がヒットしたことだと後々語っています。よほどアルバムや歌に自信があったのでしょう(財津和夫のヴォーカルでヒットを記録した作品はデビューから7年目の「虹とスニーカーの頃」まで待たなければなりません)。
 アルバムタイトル曲は今でもコンサートのラストソングとして演奏されています。観客全員が大合唱する大きな歌です。そして、今でもチューリップファンの中で特別な歌として認識されています。デビュー曲が特別な存在であるチューリップ・・・1972年に発表されたこの作品・・・当時に聴いてみたかったですね。

2005年8月4日
花形
[PR]
by yyra87gata | 2012-12-15 09:20 | アルバムレビュー | Comments(0)