音楽雑文集


by yyra87gata

『ハーディスト・ディ』  松田優作

 俳優が歌を発表すると、それが企画的に扱われて売れることがある。しかし、だいたいの俳優はドラマや映画の主題歌やCMタイアップなどがせいぜいで、歌で勝負する俳優は非常に少ない。ま、歌で勝負できれば、歌手になってしまうわけだが、演じること以外に歌という表現手段を有している俳優は、ミュージカルの道に進むこともあるだろう。でも、歌で勝負するまではいかなくても、雰囲気一発で歌ってしまう俳優もいるものだ。
 原田芳雄を初めて観たのは、泉谷しげるのライヴでのゲストだった。いきなり、舞台の袖から現れて、ギター1本で「横浜ホンキー・トンク・ブルース」をゆっくり歌っていた。
そのときのいでたちは、“ももひき”みたいなズボンにドテラを羽織って、頭にタオルを巻いてサングラスをかけていた。見た目のインパクトに固まってしまったが、”ああ、こういう音楽もあるんだなぁ”と高校生の僕は思った。音楽というよりその人のキャラクターに呑まれたのかもしれないが・・・。
 同じ匂いのする俳優で、松田優作がいる。松田優作は役者魂のカタマリのような人だと思う。
不遇な幼少時代。絶対に俳優になると決めて、郷里の山口県を離れ、上京。細い目を際立たせる為に、二重に整形までした。文学座に入り、どんな役でもこなした。エキストラ時代に見た渡哲也や石原裕次郎に憧れた。そして、テレビドラマでのブレイク。また、東映の”遊戯シリーズ”で映画界に衝撃を与え、ハードボイルドというジャンルを確立していった。松田優作のストイックな姿に大勢のファンが酔い、憧れだったアメリカ映画に進出した《ブラック・レイン》を撮りきった後、天国に旅立つ。まさに伝説の俳優になってしまった。

 松田優作も原田芳雄と同様に、俳優活動と並行して音楽活動を行なっていた。特にライヴでは、内田裕也主宰の浅草ロックフェスでは常連だったし、男臭いライヴハウスに優作のブルーズは似合っていた。1985年頃、原宿のクロコダイルというライヴハウスでジョー山中のライヴを観ていた時、客席で飲んでいた優作が飛び入りで歌ったことがある。その頃のジョー山中はレゲェに傾倒しており、ハイトーンヴォイスでピョンピョン跳ねながら歌っていた。そこで優作は落ち着いた口調で「レゲェはいいね。でも俺、ブルーズしか知らないけど・・・。これは、知っているよ。」と言って、歌いだした。
 ボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」は、優作が歌うとブルーズになっていた。独特な歌いまわしだが、何故か説得力のあるヴォーカルであった。
松田優作のヴォーカルは、好き嫌いがはっきりする歌唱である。声量があるわけでもなく、雰囲気一発で勝負している。優作のヴォーカルを聴いていると、歌の世界を演じている優作が頭の中に浮かび上がる。映像で甦るところは、やはり俳優ならではかもしれない。
 
 
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『ハーディスト・ディ』(1981)は、ハードボイルドを演じている松田優作の世界が充満している作品である。特に「灰色の街」は都会の中の裏切りや情念を重いビートに乗せて歌い上げている。レコーディング・メンバーはクリエーション。竹田和夫の粘っこいギターが絡みつく。そして、このアルバムを聴いていると、意外と“歌いきって”おり、雰囲気だけで聴いているとビックリさせられる部分もある。
アルバムラストの「天国は遠くの町」は、今聴くと全力で人生を突っ走って本当に天国に行ってしまった松田優作が甦る作品である。
このアルバムは、ブルーズを演じる優作なのか優作がブルーズなのか、問われている気がしてならない。

2005年11月2日
花形
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by yyra87gata | 2012-12-17 00:29 | アルバムレビュー | Comments(0)