音楽雑文集


by yyra87gata

『勝手にしやがれ』  セックス・ピストルズ

 
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 水曜イレブン(水曜日の11PMということだよ)の音楽コーナーは、今野雄二が担当していた。世界の最先端の音楽を柔らかな口調で紹介しており、その奇抜な文化や音楽にメイン司会の愛川欣也が早口でくだらない洒落を交えながらコメントしていた。
11PMは大人の娯楽番組である。中学生や高校生が見て楽しめるような番組ではない。ガキはせいぜいヌードを期待するくらいのもので、番組の本質を理解することはできない。そう、あの頃のテレビ番組は今と違って、はっきりと大人の番組と子供の番組が分かれていた。今のように、いつ何時でもお笑い芸人が出てきて、近所のラーメン屋を紹介するだけのような情報番組なんてものは無かった。
当時のバラエティ番組は文化を真正面から分析し、娯楽性を絡める。演出もしっかり行き届いており、芸人のくだらないしゃべりに頼っている現在とは大違いである。
例えば、スポーツ選手を例にとっても今と違って、多弁ではなかった。スポーツ選手は黙って記録や勝負に立ち向かっていたものだ。
ちょっと話がそれたが、そんな頃の話。僕は中学生だったが、水曜イレブンだけは親に隠れて見ていた。
 ある水曜日。画面から荒い映像とともに爆裂音が響き渡った。夜中(夜11時過ぎたら昔はみんな夜中だった)に親に隠れて見ている手前、とっさにテレビのヴォリュームを下げた。映像に映る男の着る白いダブダブの長袖シャツには赤い字でDeadと書きなぐられており、安全ピンが何個も付けられていた。ヘアスタイルはピンピンに逆立ち、目が尋常でない動きでギョロギョロ動く。僕の知っている長髪のハードロッカーの姿ではなかった。ベースの男は何故か腕から血を流しており、演奏途中でなんとべースを振り上げ客の中に飛び込んでいってしまった。今野雄二は“これが今イギリスで一番ホットな音楽であるパンクだ”とコメントしていた。
セックス・ピストルズである。今野はいつになく熱く語っていた。以前、ロキシー・ミュージックやマーク・ボランを紹介する時もそうだったのだが、彼が熱く語ったアーティストは必ずヒットしていた。だから、僕は翌日輸入盤屋に走ったのだ。

“セックス”などという言葉を中学生が使うことは、とても恥ずかしかったが、レコード屋の棚を探しても中々見つからないので、勇気を出してレジカウンターのお姉さんのところに行き、
「セ、セ、・・・セックス・ピストルズの最新盤ありますか?」とだけ聞いた。レジのお姉さんは慣れた顔で
「ああ、ピストルズですか。今在庫切れです。予約しますか。」と事務的に言った。
「・・・お願いします。」・・・そうかピストルズって言えばいいのか。
 次の日、学校のロック友達との会話で
「昨日、ピストルズの新譜予約したぜ。」「えーっ、セックス・ピストルズの新譜か?」
「そう、ピストルズね。」と自慢げに語る僕であった。
 
 パンクは反体制の叫びと音楽が融合したカルチャーだ。貴族社会のイギリスから長髪の汚いロックグループ“ビートルス”が誕生した時、イギリスの大人たちは眉をひそめたそうだが、その国から今度はピストルズが飛び出てきた。しかも「ゴッド・セイヴ・ザ・クィーン」を叫び、「アーイ・アムァア・ウァンチ・クィストォ!」と暴れる。ライヴハウスの中でも外でも、すぐ暴力事件を起こし、狂犬のようなバンドだ。
でもそんな乱暴な音楽は聴いたこと無かったし、パンクといってもNYのそれとも違う。ピストルズは聴くだけでカミソリに触るみたいにスッと血が出てくる音だった。気にさわる音とヴォーカルが若い血をたぎらせる。嫌いな音じゃなかった。
 僕はカトリックの中学校だったが、けっこう大きな声で「アーイ・アムァア・ウァンチ・クィストォ!」と歌って廊下を歩いていた。友達は「何だそれぇ?」と笑いながら、僕が作った歌だと勘違いしていた。
そうだ、イギリスでパンクブームが起きていたとき、「アナーキー・イン・ザ・UK」を歌っていた僕に友達は冗談を言っていると思っていたのだ。それくらい安穏としていた日本では、パンクという文化が理解できなかったろうし、できる環境でもなかったのだ。
 

2006年1月21日
花形
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by yyra87gata | 2012-12-18 13:43 | アルバムレビュー | Comments(0)