音楽雑文集


by yyra87gata

『コート・アンド・スパーク』  ジョニ・ミッチェル

 映画《ラストワルツ》でジョニ・ミッチェルは「コヨーテ」を淡々と歌っていた。悪くいえば起伏のないメロディーだが、心地よいヴォーカルが眠りを誘う。長い映画の中で意識が落ちていく時間であるが、決してつまらないというのではない。心地よいのだ。オープンコードを使った8ビートのソフトロックは、ジョニの真骨頂でもあり、ザ・バンドの演奏がしっかりとサポートしている。ジョニ姉さんにみんな付いていっている印象が残る。
 ジョニ・ミッチェルは1968年デビュー、デビッド・クロスビーの手助けもあり、1969年のウッドストックコンサートではコンサートのタイトル曲を制作(歌はCSN&Y)。一躍有名になった。そして西海岸のミュージシャンとの交流が始まった。音楽はもちろん、プライベート面でも、グラハム・ナッシュやジェームス・テイラーと噂されたこともあり、恋多き女性でもある。
1970年代初頭のシンガーソングライター・ブームではすでに大御所で、西海岸に限らずアメリカの名だたるアーティストとの交流も出来上がっていた。これも彼女の作る世界と表現力のあるヴォーカルによるものだ。

 『コート・アンド・スパーク』(1974)はトム・スコット(LAエクスプレス)とクルセイダーズ一派の人脈で制作されたアルバムである。それまでのフォーク・ロック調の作風ががらりと変わり、ジャズのテイストをふんだんに使った作品である。トム・スコット以外にもジョー・サンプルやウィルトン・フェルダー、ラリーカールトンなどが中心になり、ジョニの世界観を作り上げていく。
 テーマはデビューの頃から変化はしていないが、作り手(ミュージシャン)が変わることにより新たな形に変革していく。メッセージを伝える手段としてディランがフォーク調の歌をエレキバンドで演奏し、客からひんしゅくをかったこととは大違いで、キャンバスにデッサンしている時からイメージは作り上げているような変化であった。
 
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 彼女はもともと画家で、物事をイメージで捉え、具現化していく才能を持ち合わせている。自分の好きな方向であれば、すさまじい適応能力を示すのだ。『青春の光と影』(1969)でタイトル曲の「Both Sides Now」 の“物事の両側面を捉えて思考する”というジョニの世界観が、当時の一方的な反体制を唱える学生運動やベトナム戦争反対といった中身のない運動家に対し冷静になることへの呼びかけは成功だったようだ(ちなみにこの「青春の光と影」はジュディ・コリンズがヒットさせ、日本でも赤い鳥がカバーした)。
 そういった世界観のジョニがジャズにアプローチしたことは自然の流れだろう。フォークに凝り固まっていては新しい世界を見ることができない。西海岸のミュージシャンにとどまらず、東海岸のミュージシャンとの交流も広げていった。
 
 ジョニ・ミッチェルを語る上で忘れられないミュージシャンがいる。ジャコ・パストリアスである。公私ともに公然の仲だったが、ジョニの音楽観を表現できる最適なベースマンと確信する。CSN&Y仕込みのオープンコードチューニングに流れるようなフレットレスのベースメロディが走りまくる。そこにパット・メセニーのギターが絡む。『シャドウズ・アンド・ライト』(1979)は当時のサンタバーバラのコンサートの模様をしっかり捉えている。ジョニの活き活きとした歌声を若いジャコやパットが支えている事実が残っているだけで幸せである。
そういった意味でも、ジャズに近づいた最初の『コート・アンド・スパーク』は非常に重要な作品なのだ。

2006年2月24日
花形
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by yyra87gata | 2012-12-19 12:51 | アルバムレビュー | Comments(0)