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音楽雑文集


by yyra87gata

『こわれもの』  イエス

 桜の季節である。桜を見て心が和むのは、日本人の証拠である。僕は昭和の人なので、桜を見ても森山直太郎、河口恭吾、ケツメイシ、コブクロ、グループ魂・・・等の「さくら」や福山正治の「桜坂」なんて歌は口ずさまない。つい、口から出てくる歌は例の「さくらぁ~さくらぁ~、野山も 里も 見わたぁすぅかぁぎぃりぃ~」のメロディである。あの日本的な節回しが花を見ながら歌うとなんともいえぬ感覚になる。そんな気持ちになりながら、歌っていたら、この歌を別の場所で聴いたことを思い出した。
外タレのコンサートである。
 外タレは、日本人に“サービス”と称し、やたらとこの歌や「上を向いてあるこう」などを歌う(歌いたがる)。僕はあの行為が大キライである。その瞬間にそれまでそのアーティストに抱いていた憧れや敬意などがいっぺんに冷めてしまう。それまで格好良くギターを弾きまくっていたと思ったら、いきなり「さくら」のフレーズ入れてくるやつ。“あ~あ~”ってなもんである。余計なサービスは過剰サービスというのだ。いらん。
 
 イエスのジョン・アンダーソン(Vo)も、必ず来日すると日本の歌を歌う。しかもMC中にいきなりアカペラでやりだす。
「さぁくぅらぁ~、さぁくぅらぁ~・・・」へったくそな日本語の発音で歌いだす。それをファンは可愛いといい、日本の歌を歌ってくれたことに感激している。アホかっちゅうの。そんな暇があるのなら、もっとYESの曲をやってくれ!と思う。
ジョンが完璧な発音で歌い倒したらスタンディングオベーションものだが、変なサービスは遠慮したい。
ジョンはベビーフェィスで、ソフトなヴォーカルの部類であり、自らを天使と思い込んでいる節もある(ステージ衣装はいつも真っ白)。緊張感のあるイエスの演奏の中で、1人別世界を歩いている。そこがイエスの魅力であり、強みでもある。変拍子と予想出来ない展開にハイトーン・ハスキー・ヴォイスが絡み、独特な世界を作る。
『こわれもの』  イエス_d0286848_1333495.jpg

 イエスの4thアルバム『こわれもの』(1971)は、1971年9月ロンドンのアドヴィジョン・スタジオにて録音。リック・ウエイクマンの加入でイエスの音が完成したとも言われている。この時のメンバーの年齢はジョン・アンダーソン27才、ビル・ブラッフォード22才、スティーヴ・ハウ24才、クリス・スクワイア25才、リック・ウエイクマン22才。この若さでこの円熟した演奏には誰もが驚いた。
僕はこのアルバムを高校1年の時に体験した。当時組んでいたバンドのギタリストが練習曲としてやらないか、と「燃える朝焼け」を持ってきたことがきっかけだった。異様なスネアの連打とギター、ベースとのユニゾンに当時ドラムを担当していた僕は真剣になった。僕はビル・ブラッフォードのハイを強調した音に魅せられ、チューニングをカリカリにし、スネアを鼓笛隊のように連打した。バンド練習曲として、「燃える朝焼け」は非常に適しており、テクニックはもとより、メンバー間の息遣いも読み取る練習にもなった。
このアルバムには名曲「ラウンドアバウト」も収録されており、イエスの魅力を凝縮した名盤である。

 イエスはメンバーチェンジを繰り返し、時代の音と共に成長し、テクノロジーを駆使し、迎合もしながら肥大化した。
1992年、『UNION』を発表。8人組大所帯のイエスが生まれた。つまりそれまでのイエスメンバーが結集したのだ。そして彼らはワールドツアーも敢行した。アラン・ホワイトとビル・ブラッフォードのツインドラムやスティーヴ・ハウとトレヴァー・ラヴィンのツインギターはそれなりに面白かった。イエス独特の緊張感ある音楽というよりアンサンブルを重視した楽曲が多かった。それよりも、緊張感は楽曲ではなく、メンバー間にあったと言われている。この企画はイエスファンにはひとつのメモリアルとして記憶されるが、外野からは金のために集まったとも言われていた。そりゃそうだ、今まで交わることのないプライドの高いメンバーが各ポジションにそれぞれ2人ずついて、バンド活動をしているのだ。それぞれの時代のヒット曲を、見せ場を考えながら演奏するかったるさといったらないだろう。
この企画を作った張本人はジョン・アンダーソンといわれている。メンバー間をとりもって、8人イエスを作ったことは賞賛に値するかもしれないが、逆に考えると“何も考えずとりあえず集まっちゃえ”的なノリで動いてしまったようにも思える。なぜなら、武道館で8人の勇姿を観たが、がっちり固まったバッキングの前でジョンはまたあの歌を歌ったんだよ。
「さぁ くぅ らぁ~・・・・」

あれれれれれれれれれれれれれ。

2006年3月29日
花形
by yyra87gata | 2012-12-19 13:33 | アルバムレビュー | Comments(0)