音楽雑文集


by yyra87gata

井上陽水の作風の変化

 陽水がパクられた時、拓郎はフォーライフ・レコードの社長だった。小室等から引き継いだ形で社長に就任したが、最初に起きた大きな事件がこの“陽水逮捕”だった。
「陽水は反省している。早く音楽を作りたい、と言っている。絶対に陽水はつぶさない」と拓郎はコメントした。
 僕は中学2年だったので、大麻所持という刑事事件がどれほど大きいことなのかわからなかったが、どこか冷めた目でこのニュースを見ていた。
人を殺したわけでもないし、人のものを盗んだわけでもない。日本では違法な煙草(薬)を服用しただけで、身体的ダメージを受けるのは本人なんだろう、などとぼんやり思った。
それはビートルズがLSDを服用したり、ミックやキースが大麻所持で逮捕されたニュースを聞いていたからかもしれない。海の向こうの話がたまたま日本に来ただけ、と思ったのだ。

 逮捕後、発表したアルバムは『White』(1978)。訳すと「シロ」だよ・・・。シニカルだ。
暗闇の中で白いTシャツを着てサングラスの陽水。口は赤いマグカップで隠され、妙に怪しい雰囲気を醸し出していた。ひとつ間違えれば警察で写される写真のようだ。

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 1曲目は「青い闇の警告」。陽水の取り巻く現実を、シニカルに捉えた作品のように聴こえた。そういえば、復帰後(逮捕後という意味)に開かれたコンサートの1曲目は「御免」だったことを思い出し、笑った記憶がある。自分の日常を笑い飛ばして歌で表した?(「御免」は逮捕前に作っていたけどね)。
 陽水は逮捕後、メディアに積極的に出演し始めた気がする。どういう心境の変化かは知らないが、やたらと目立つようになった。
1979年暮れには高中正義とジョイントライブと称して武道館のステージに立っている。この模様はテレビでも放映され、陽水健在を示した。
 ちょうどこの頃から陽水の作風に変化が見え始めた。ポリドール時代のフォーク調、フォーライフ初期に見られるシニカルな歌詞に加えてなにやら呪文のような言葉遊びが『スニーカー・ダンサー』(1979)あたりから目立つようになる。コピーライターかと思わせる表現もこの頃からである。
「いっそセレナーデ」とか「背中まで45分」とか・・・。
 そしてそれが現在まで脈々と継承されている。だからたまに「少年時代」なんてフォーク調の直球が飛んでくると、昔のファンは飛びついてしまうのかもしれない。
はっきり言って、僕も陽水の言葉遊び感覚の歌になじめなかった1人である。いまだに陽水はポリドール時代と思っている。しかし、僕が一番多感だった中学時代に原体験した『White』と『スニーカー・ダンサー』は一番印象に残っている。特に『スニーカー・ダンサー』は陽水の作風が変わる過渡期の作品ではないだろうか。もちろん音楽的にフォークからニューミュージックに様変わりした作品は『二色の独楽』(1974)なのだろうが、叙情的な歌詞が影を潜めシニカルな言葉と抽象的な表現が並ぶようになっていく新しい陽水のスタイルは、1980年を境に作り上げられていったのだと思う。
 『あやしい夜を待って』(1981)に収録されている「ジェラシー」は商業的にも成功し、新たなる陽水のスタイルを確立していった。そしてちょうどこの頃、安全地帯をバックバンドにしてコンサート活動を始めており、「ワインレッドの心」のヒットを生み出すことにも成功し、再び陽水は浮上していく。陽水は積極的に歌番組に登場し、怪しい雰囲気を出しつつも庶民的になっていった。それが証拠にとんねるずと一緒にコントまで挑戦したのだ。この姿を見て、誰も陽水がパクられたことがあるなんて思わないだろう。

 フォークブームの真ん中に立ち、日本で初めてミリオンセラーを記録したアルバム『氷の世界』(1973)を発表。拓郎や泉谷とともにミュージシャン初のレコード会社フォーライフを設立。順風満帆と思われていた時におきた刑事事件。その直後の作品は、“音楽を作りたい”という強い欲求からできた作品。その作品が陽水の作風を変えていったことは時代の流れなのかそれとも彼自身の変化なのか。
 僕は音楽評論家ではない。だから個人的な思惟のみで語るので、教科書的な書き方はできないが、陽水の場合、アルバム単体での感想よりも各作品の流れを感じ取りながら、継続的に聴くことをオススメする。そうしないと、聴く時代によって全然違う作風に悩まされるからだ。
   

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2007年1月10日
花形
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Commented by いつもと違った春 at 2013-09-12 05:57 x
事件後のwhite発売時コンサート見た時私は16歳で、はなっちさんのコメント良く解ります。メディアに積極的に出演し始めた…やっぱり商業的にはイメージを変えざるを得なかったのですねぇ。シニカルな歌詞を強調する分、以前あった英国的暗さ?なメロディーや曲想が影を潜めたと思います。歌い方も変。やっぱりポリドール時代だよぉ!「少年時代」の直球…同感だなぁ!結局大ファンなんですけどね。
Commented by yyra87gata at 2013-09-12 17:30
ありがとうございます。結局ファンなんです。でも好き嫌いはありますしね…。なんでもかんでも認めてるって本質じゃないと思うんですよ。偉そうですいません…。
by yyra87gata | 2012-12-24 13:18 | 音楽コラム | Comments(2)