音楽雑文集


by yyra87gata

『スリラー』 マイケル・ジャクソン

 先日、マイケル・ジャクソンの「スリラー」を久々に聴いた。完璧なアルバムだと再認識したのだが、あることを思い出した。
私が大学に入学した頃のこと。当時うちの学科では入学してすぐに、新入生と有志の先輩で1泊2日の懇親旅行なる企画があった。先輩たちの計らいで「とにかく仲良くなっちゃおう」という軽いノリの企画だ。
新入生、約120名は10組ほどの班に振り分けられ、そこにオブザーバーの先輩が5人ほど付いてくれる。良き相談相手である。新入生は大学生活への不安と期待が入り混じり、先輩を頼りにする。先輩たちもいろいろと便宜を図ってくれた。
 新入生は自己紹介などを行ないながら男女入り乱れての今にして思うと合コン状態であった。しかしそんな中、各班に変わり者の新入生が1人~2人まじっていた。
「やくざの息子」「おかま」「スポーツバカ」「電車オタクな女」「マスコミにコネのある金持ちのおぼっちゃん」「やたらと声のでかいやつ」・・・・。新入生の中でも浮いてしまうやつである。
バスハイク中でもこの連中はやたらと問題を起こした。中には喧嘩をはじめる始末。
私は面倒くせぇなぁと思いながら、一応年長者だったので(どうせだぶって入ったよ!)仲裁に入ったりしていた。
その騒ぎは宿に着いてからも止まらず、夜の新入生歓迎パーティーの時にピークを迎えた。とうとう、見かねた先輩とその新入生は大喧嘩を始めてしまったのだ。
ところが、である。
暗転し、「スリラー」のテーマが大音量で食堂に鳴り響く。
すると、私と同じ班でさっきまで私の太ももを触っていたおかまちゃんがすくっと立ち上がり舞台の方に歩いて行くではないか。周りを見渡すと白いスーツのやくざの息子も、車掌の帽子をかぶった電車オタクな女もみんな舞台に向かってゆらゆらと歩き始めている。
そして横一列に並ぶと、例のスリラーのゾンビダンスを完璧に踊っているのだ。
 新入生たちは大いに盛り上がり、今まで騙されていたことを気づかされた。先輩が新入生のふりをして我々に潜入していたのだ。大学生らしい企画ではあるが、班を作ってから1週間後の懇親旅行なので、潜入していた先輩たちは1週間ずっと新入生になりきって、我々と話をしていたことになる。アホもここまでやれば面白い。
私は「スリラー」を聴くとトラウマのようにこの先輩たちのダンスを思い浮かべてしまうのだ。しかし、本当に上手かった。バスハイクの責任者なんて赤いGジャンに赤いピチピチの革パンツを履いて、マイケルばりにムーンウォークしてたよ。
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 さて、この『スリラー』(1982)であるが、この作品はマイケル・ジャクソンのスター性が遺憾なく詰め込まれており、ダンスミュージック、ディスコサウンド、ソウルミュージックなどという範疇では語れない次元の作品となっている。また、MTVで大々的にプロモーションが行なわれたので、音を聴くだけで自然とマイケルのダンスシーンを想起する人も多いだろう。それだけインパクトのある映像だった。
「ウェストサイド物語」ばりの展開が見られる「ビート・イット」、ゾンビが墓場で復活し、全員でダンスする「スリラー」、ポール・マッカートニーとの共演による「ハート・オブ・マイン」など。このMTVは、映画並みのクオリティの作品で(監督:ジョン・ランディス)、アルバムヒットの原動力になっている。つまり「スリラー」は音と映像が見事にマッチした傑作であり、それまでの音中心の音楽から映像を含めた音楽を築き上げたエポックメイキングな作品である。音を聴くだけで映像が甦るというMTVの効力を十分理解し制作されたものだ。
だから、「20世紀、最も評価された作品」と評され、グラミー賞7部門獲得。発売当時から現時点で1億400万枚も売れ続けている(世界記録)。全9曲中、8曲がシングル・カット(シングル7枚)され、いずれも大ヒットを記録。37週全米1位を獲得した。ちなみに「スリラー」のビデオクリップは、100万本の売り上げだそうだ(ギネスブック掲載)。

 アルバムの制作面ではクィンシー・ジョーンズが再びプロデュースを担当し、それまでのソウル&ファンクビートが強かったマイケルの作品を見事に流行の音に仕立てあげた。例えば、ヴァン・ヘイレンがギターを弾いたことで「ビート・イット」はそれまでには無かったロックテイスト溢れる作品となり、当然のようにアルバムは全米1位を獲得した。そのため、ヴァン・ヘイレンは、「ジャンプ」「パナマ」といった大ヒットシングルを擁したアルバム『1984』でさえも全米1位に輝くことができなかったという皮肉な結果も生み出している。
この作品が巻き起こした事象を挙げていたらきりが無い。とにかくスリラーというよりモンスターと言えるアルバムである。
 最近、CDでこの作品を聴く機会があった。音の緻密さは、来たるデジタル世代の先鞭となり、その正確無比なサウンドメイキングとブラックミュージック特有のグルーブのミクスチャーは脱帽せざるを得ない。
前作の『オフ・ザ・ウォール』(1979)は、クィンシー・ジョーンズとの初タッグ作品でマイケルのソウルミュージックやファンキーな一面を整理された音で表現し、十分な成功作品に仕上げた。そしてこの「スリラー」は、表現力が一層広がり万人に受け入れられた。売れるからには何らかの理由があるわけだが、まさに時代を作った音がそこに存在している。

でも、「スリラー」を聴くとマイケルには悪いが、先輩たちのダンスを思い浮かべてしまうんだよなぁ。

2007年10月26日 
花形
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by yyra87gata | 2012-12-26 08:42 | アルバムレビュー | Comments(0)