音楽雑文集


by yyra87gata

『ぼちぼちいこか』 上田正樹 有山淳司

 
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再発万歳! ボーナストラック付の紙ジャケ!
よくぞ復刻してくれましたという感じ。レコードを買いそびれて私の唯一の音源であったカセットテープはとっくにベロベロに伸びてしまっていた。
ネットでは高額でレコードが取引されていたが、私はレコードコレクターではないので、とにかくまともな音で聴きたかっただけ。いやぁこの再発は本当に嬉しい。

 上田正樹と有山淳司。2人クレジット。アコースティック・ブルーズの名盤である。
もともとは“上田正樹とサウス・トゥ・サウス”のアコースティックコーナーで繰り広げられていた演奏をアルバム化したもの。
もちろん作品として残るので、ライヴで実際に歌っていた内容よりはかなり抑えられているが、それでもけっこうきわどい事をきわどい表現で素直に歌っている。この「素直」にということが非常に重要で、悪気も無く大阪の生の姿を歌っているのだ。
私は大阪人ではないが、このアルバムを聴くと埃っぽい昭和の大阪のダウンタウンが垣間見える気がするのだ。

 さて、音の話だが、有山が奏でるアコースティック・ブルーズに上田のハスキーヴォイスが絡む。ソウルフルな上田のヴォーカルはサウス・トゥ・サウスで見せるパワー全開のそれではない。どこか乾いたヴォーカルで、いい意味で力が抜けている。反して有山がヴォーカルを取る曲は、有山のハイトーンが曲をまろやかにしており、女性ヴォーカルと間違えるかもしれない。
 そんな2人の歌で大阪の真髄を歌い上げる。
労働者の悲哀、いつかは成功して北新地に呑みに行くことをサラリと歌う。
この作品を聞きながらウンウンと頷いた人も多いだろう。
特にこのアルバムが発表された1975年は、まだ“日本のロック”はサブカルチャーであり、一部の人間だけのものだった。その中でもこのアルバムは、特定の人だけ(関西人もしくは上田正樹ファン)しか理解できないものだったのではないか。
(私も中学時代に甲斐よしひろのラジオで聴いたのが最初。最初はぜんぜん理解できなかった)
70年代中盤の日本の軽音楽事情は、フォークブームの翳りによりニューミュージックへの移行が音を立てて行なわれていた。その中で日本のロックだけは混沌としており、相変わらずのマイナーリーグだった。商業的に一向に花開かない“日本のロック”の中で関西といえばブルーズだったのだ。
なぜ関西でブルーズが流行したのかは疑問だが、関西弁とブルーズの音感が非常にマッチしているからだろうか。それとも、もともとのブルーズ=黒人の労働歌という図式が、関東と比べて飾らない本音勝負の関西人に合ったのか。
また、関西ブルーズは本場アメリカで例えるなら、シカゴブルーズというより、ミシシッピ・デルタ・ブルーズのような土臭い音。
歌い上げる歌詞も生活感の溢れるものばかりで、好き嫌いもはっきり分かれるだろう。だからそんな関西の生活臭がラジオから流れてきても、関東に住んでいた中学生の当時の私にはよくわからなかったのだ。今でこそ、お笑いブームで関西弁がTVから日常会話のように流れ出て、流行語のように関東人がめちゃくちゃな関西弁を使うなんてことが普通となっているが、30年前では考えられないことだった。
 だから当時、友人の家で「ぼちぼちいこか」を全曲通して聴いた時、半分も理解できなかった。但し、何を言っているのかわからないが、とにかく関西弁で何かしょうも無いことを訴えているだな、ということだけがわかったと思う。
でもそれで十分だった。あんなグルーヴはきいたことが無かったから。いや、後にも先にもあのグルーヴを出している作品は聴いたことが無いかもしれない。
「ぼちぼちいこか」・・・なんて気の抜けたタイトルだろうと当初は思ったものだが、上田と有山のデビュー作というこの作品。「もうそろそろ、本気出すよ!」とも聞こえる。

 話は変わるが、この作品、ジャケットにも映っている「食いだおれ太郎」と一緒に大阪の文化的遺産として永久に残しても良いのではないか。
新聞社とケンカしている場合じゃないよ、府知事!

2008年10月26日 
花形
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by yyra87gata | 2012-12-26 14:35 | アルバムレビュー | Comments(0)