音楽雑文集


by yyra87gata

『RINGO』  リンゴ・スター

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 リンゴ・スターって下手ウマ的な言われ方をしているけど、歌心のあるリズムを出す天才なのではないだろうか。それは、あのビートルズの屋台骨だったということもあるが、彼のソロアルバムからもそれが伺うことができる。
「テクニックじゃないよ、ハートだよ」的なアプローチ。
リンゴの発表したアルバムは数あれど、私は誰がなんと言っても『RINGO』(1973)を推す。
1970年にザ・ビートルズが解散し、毎年のように再結成話が持ち上がっていたが、この作品発表の時ほど盛り上がったことは無いそうだ。
それは、この作品にジョンもポールもジョージも参加し、誰の目から見てもリンゴのような包容力のあるキャラクターに神経質な他の3人が少しでも素直になれたのではないかと希望的観測で噂が飛び交ったのだと思う。ハートだよ、ハート。
 作品はいきなりジョンの作品「アイム・ア・グレーテスト」から始まる。この作品、リンゴの飄々としたヴォーカルだから活きたのであって、ジョンがそのまま歌っていたらいつぞやの田原の俊ちゃんのような空気が読めない人(「俺はビッグ」発言)か、いつぞやのジョン自身の「私はキリストより人気がある」発言といったことと同じ過ちを犯していたかもしれない。でも、リンゴである・・・。みんな笑って聴いてくれた。
 ポールは「シックス・オクロック」。バラードの名曲だ。ポールがリンゴに対して心情を伝えているような歌詞。そしてステキなメロディラインである。
ジョージは、このアルバムから最初にシングルカットされた「想い出のフォトグラフ」を提供。リンゴとの共作でこのアルバムからのファーストシングル。大ヒットした。もう、この時期のジョージは音楽創作意欲がハンパ無い時で、アドレナリン出まくりの頃。ビートルズが解散して1975年あたりまでのジョージは毎年何かしらの話題があり、音楽生活も一番充実していたのではないだろうか。ビートルズという亡霊からいち早く脱皮したのがジョージだと思う。そんなジョージはこのアルバムに3曲も作品を提供している。そして他にもリンダ・マーカットニーやザ・バンドのメンバー、マーク・ボラン、ニルソン、ビリー・プレストン、クラウス・ブアマン、ジム・ケルトナー、スティーブ・クロッパーなどが参加。この参加メンバーを見ると、音楽性がバラバラだからどんな作品が収録されているのだろうと思ってしまうが、そこがミソ。
ただ単に元ビートルズが集まったモニュメント的な作品なんかではないのだ。
次から次へまるでおもちゃ箱をひっくり返したようなバラエティに富んだ楽曲が飛び出してくる。こういう五目飯的なアルバムは音楽が散漫になりがちだが、そこはリンゴのヴォーカルが全てを包み込んでしまう。なんと説得力のあるヴォーカルなのだろう。
 また、このアルバム・・・、私が注目したいのは曲のバラエティさも去る事ながら、リンゴの叩くドラムの音がいいのだ。ビートルズ時代のちょっと湿ったようなスネアの音やキックの音が非常にクリアに聞こえる。もともとあまり輪郭がはっきりするようなスタイルではないのだが、この作品のドラムの音はそれまでのアルバムのどれよりもいい。
 ヴォーカルではなく、ドラムの話になったのでついでに書くと、結構ミュージシャンの中にもリンゴファンは多いと聞く。私が知っているだけでも名手・村上ポンタ秀一、高橋ユキヒロなんてどの雑誌を見てもリンゴ・スターを好きなドラマーの第1位に挙げている。ポンタなんて卓越したテクニシャンドラマーなのにリンゴかぁなんて思ったものな。
その理由は・・・。ポンタ、ユキヒロ、両者共に共通してリンゴのテクニック面ではなく楽曲に則した奏法を指摘していた。
高橋ユキヒロ・・・ラディックの3点セットをあれだけ表情を付けて演奏できるミュージシャンは数少ない。
村上ポンタ秀一・・・リンゴのリズムはしっかりヴォーカルに溶け込んでいるからステキだし、自分もそうありたい。
 私も中学時代にドラムを触り始め、ビートルズをコピーしたことがある。しかし、思い描くように叩けず悩んでいた。その時、友達はツェッペリンやパープル、MSGなどをコピーしていたので、私がリンゴのコピーをしているのを知ると、「そんな簡単なエイト、初歩の初歩じゃん!それよりコージーだよコージ!」なんていいながらツーバスの足まねをしながら私を挑発してきた。私は素人だったので、リンゴのドラミングを彼にやってもらおうと思い、一緒に音楽室でドラムを叩いてもらった。
レコードを流しながら、彼はリズムを刻み始めたがどうもしっくりこない。友達の焦り始める顔・・・。
そしてとうとう満足のいく演奏なんてできなかったのだ。彼は不思議そうにビートルズの演奏を聴いていた。
私は常々リンゴのリズムは特徴があると思っていた。それはビートルズのグルーヴって誰がやってもできるものではなくて、特に初期から中期にかけてのロカビリーやロックンロールのビートはリンゴ独自のリズムで形成されているのだと思った。だから、リンゴとポールが作るグルーヴは彼らを無敵のロックンローラーに仕立て上げることができたという仮説だ。ポールのカールヘフナーから繰り出す箱物のベース音とバタバタとしたリンゴのスネア。これぞビートルズのビートであり、それに憧れたミュージシャンは星の数ほどいるだろう。そういう意味でいくと、リンゴは飄々としながらも、計り知れない演奏技術があるのではないか。
 
 最後に演奏能力について質問された際にリンゴの答えはイカしていた。
インタビュアー「ストロベリー・フィールズのドラムは上手すぎて、リンゴのプレイではないのでは・・・?」
リンゴ 「たいしたことはないよ。二度と同じようには叩けないけどね。でも、皆と一緒に終わるくらいならできるぜ」
『RINGO』は、ハートで叩くリンゴの最高傑作アルバムである。

2012年1月23日
花形
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by yyra87gata | 2012-12-27 16:13 | アルバムレビュー | Comments(0)