音楽雑文集


by yyra87gata

マーチンD45

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 楽器屋さんに行ってもそんなにギターが欲しいと思わなくなりました。
何故でしょうか。
もし楽器屋さんに入ったとしても、新品のコーナーは素通りしてしまいますね。ヴィンテージの固体を探し、その楽器の前でため息でもつきながらうっとりと眺めるでしょうね。
そう、ある種、工芸品を見る境地であります。
それはエレキギターでもアコースティックギターでもエレキベースでも一緒です。
「良い色に退色している」とか、「クラッキング(塗装のヒビ)が絶妙」とかそんな気持ちで眺めています。
こんな私は、ギターヴィンテージ館なんて出来たら、すぐに行くでしょう。
 
 さて、楽器屋さんですが、ヴィンテージを見ていて陥ってはいけないミスが一つあります。それは、つい試奏してしまうことです。
「これは」と思うギターを手にした場合、次に脳内で変換されることは「今、貯金いくらある?持っているギターを下取りに出したらいくらになる?月々いくらまでならローンで払える?」なんて思いが一気に想起されてしまうのです。
ちなみに、私は一時期かなりの数のギターを所有しておりましたが、現在は整理に整理を重ね、数本しか残っておりません。
アコースティックギターはマーチンD45(1976)とD28(1976)、国産のキャッツアイ(1979)。エレキギターは、ギブソンSG std(1965)とESP製のロン・ウッドが所有していたストラト(1985)だけです。あと、フェンダーのジャズベが1本(2000)。
なんとシンプルなラインアップ!
気まぐれでギターを購入していた時期が懐かしい。
ギブソンもギルドもオベイションもヤマハもグレコもモーリスもマーチンD18、D19、D28・・・も、みんな処分してしまいました。

 私はここ最近(20年以上)アコースティックギターしか弾かなくなり、2年前にマーチンD45を手に入れてしまってからは、楽器屋さんに行っても興味をそそるのはマーチンのD45のみ。しかも1983年以前に生産された固体のみ。これが、中々出回っておりません。そういう意味でD45以外のギターを購入する気持ちは無くなってしまったので、楽器屋さんから足も遠ざかってしまっているのでしょう。
そして、このD45ですが、たとえ希望の品があったとしても相場からして900,000円~1,500,000円位します。60年代後半のモデルが出てくれば一気に3,500,000円~∞。
1930年代のモデルなど出ようものなら、価格はつけられないでしょう。
だから、D45が欲しいといっても中々手に入れることは出来ないのです。
D45ならいくらでも欲しいのですがね。

 まぁ、そうは言っても金に糸目をつけなければ欲しいギターも無いことは無いですが、歳も歳です。高いギターを残され、私が死んだときに処分に困ることを考えると家人に迷惑はかけられませんので・・・。気持ち的には「整理」の段階に入っているのです。
そして、現在所有する楽器たちを最期まで弾くかなぁなんて思っているわけです。

 さて、そのアコースティックギターの中でもマーチンD45な訳ですが、手にしてみてわかったことがありました。
造りが良い事は皆様もご承知でしょうが、何と言っても重量感があるということです。そしてそれは貝のバインディングが全体に施されていることで、木と木をがっちりと繋いでいるのであります。飾りだけと思っていては大間違いです。ストロークをした瞬間ボディ全体がバランスよく響きあうのであります。
 マーチンD28はアコースティックギターのお手本の様なギターと言われます。しかし、このD28、実はかなりのドンシャリなのであります。私の所有するD28もD45も1976年製でありますが、弾き比べると音の違いや倍音などびっくりするくらい違う個性を持っております。
 同じスプルースの表板でサイドバックはローズウッドです。D45はD28のゴージャス版という位置づけですから同じ材料で作られています。
但し、D45はD28と同じレベルのスプルースやローズウッドを使用せず、厳選された木を使っていると言われています。そういった厳選された木材を貝がガッチリ詰め込まれて、重厚な音になっているのでしょうか。
 こんなことがありました。レコーディングで派手派手しいストロークをD45で録っていました。録った歌をプレイバックして聞いてみると、ギターの音が芳醇過ぎてしまい、とてもトゥマッチな印象を受けました。後日、そのトラックにD28で録り直してみると上手くはまるのです。
そのギターの特性を生かした使い方をしないと、いくら音が良くても音楽的にならないと言うこともあるのです。
 
 私はD45を購入するにあたり、迷いはありませんでした。私は一時期ネットを使い、都内のどこの店舗に何年式のD45が在庫しているとか、試奏できるか、などを常に把握しておりました。そして時間があれば弾きに行くこともありました。
 当時の私はD28を2台所有しており、弾き分けておりました(同じモデルでも音の特徴はぜんぜん違いました)。D28は標準的なギターなので、安心してプレイすることもできましたし、満足していたのですが、あまり出回らない1970年代のD45が4本も同じ店に現れたのです。これは事件です。アコースティック専門店でもせいぜい1本か2本、それも最近のモデルや新品が並ぶということはあっても1970年代のD45が4本揃うことは珍しいです。増してや、正規代理店の黒澤楽器だってそんなことは中々無いことです。
 D45が4本並ぶと壮観です。私は店長さんに1本1本弾いてもらい、真ん前で音を聞き比べました。そうです、アコースティックギターは、自分で弾いて聴く音と、ギターの前で聴く音が異なります。まずは出音を聴くのであります。
どれも甲乙つけがたいのですが、私は4本の中で一番汚く、キズがある固体と、一番綺麗なボディの2本に目が行きました。
2本とも980,000円のタグがついています。税金込みで1,058,400円。やっぱり7ケタかぁ~、なんて思いながら、試奏を始めました。
私の所有するD28とは全然違う音の出方。これは7ケタの価値が十分あると思いました。
「何で急にこんなにD45が増えたんですか?」と私。
「これ、実は委託販売の物件で、1人のオーナーが持ち込まれたのですよ」と店長は言う。
なるほど、そういうことか。
店長は綺麗な方のギターを勧めてくれましたが、私は汚れている方が気になっています。
すると店長が・・・
「お客様が弾いている方はもう少ししたら価格を下げようと思っているんです。ネットにはまだ出しませんが、予定で880,000円ですね。ほら、綺麗な方は放っておいても売れるじゃないですか・・・」
「なるほど。しかも、私の気に入った方は税込みで100万切るじゃないですか!」
こんな会話をして、その日は店を出ました。
それからは、いても立ってもいられないのです。ネットで在庫を確認する日々。
3日後、綺麗なD45にSOLDの文字が!
(やっぱり売れたか、そうだよな。あれは良かった。綺麗だったし、でもちょっと音がバラついていたんだよな)なんて思いながら、もう一本の方に頭はスイッチ。
そして、週末、車にギターを詰め込んで楽器屋さんに赴いたのでした。
「これ、買います。で、このギター委託販売で出しますんで、よろしく」
車のトランクから「マーチンD28(1981)」「オベイション・レジェンド1767」「ヤマハSA-1000」を運び入れました。
そして契約。
 私は、D45を抱きながら、店の中でポロポロと爪弾いていました。店長さんはマーチンに詳しく、いろいろと裏話を教えてくれます。こういう会話が一番楽しいです。
ふと目線を壁に向けると見慣れぬD45が。
「あれ、こんなD45、ありましたっけ?」
「今日、さっき入庫したんですよ。80年式だからSQネック、ペグがシャーラーに変わっただけで作りは1970年代と一緒です。弾いてみます?」
弾いてみると、これが、音がでかい。弦高が若干高目だが、調整は効く。価格を聞いてびっくりしました。委託販売品でしたが、すぐにでも現金化したい人のようで、相場より格段に安い設定。
これは、買いです。
でも、私はすでに購入したばかり。そこですぐに私と同じくD45を探しているミュージシャンに連絡を入れたのでした。そして、翌日にはその方がゲットしておりました。

 D45をライブで使用しているミュージシャンは意外と少ないです。
CSN&Y、ライ・クーダー、ガロ、加藤和彦、石川鷹彦、伊勢正三、さだまさし、南こうせつ、杉田二郎、坂崎幸之助、高見沢俊彦、玉置浩二、桜井和寿、清水國明・・・
というか、けっこう古いミュージシャンが多いですね。
ライブにD45を真綿に包むようにもってきて、ハードなステージをするなんて馬鹿げているのでしょうね。
私の使用する楽器は生涯現役です。どんなに演奏コンディションが悪かったとしても、必要であれば弾くでしょう。楽器は鳴らしてナンボですからね。

 2年経った私のD45はけっこう私との歴史が刻まれています。ピックによるスレはもちろん、ぶつけたり、倒したり、引っ掛けたり。でも元気に今日も鳴り響いております。
そして先ほどのミュージシャンと一緒に2人でD45をかき鳴らしております。


2016月4月6日
花形
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by yyra87gata | 2016-04-06 18:30 | 音楽コラム | Comments(0)