音楽雑文集


by yyra87gata

エルビスの功績

 
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 アメリカ合衆国は、かつての南アフリカ共和国のアパルトヘイトやナチスドイツのアウシュビッツ収容所のユダヤ人迫害にも劣らない人種差別国家である。建国以来、州によってはつい最近まで差別行為が法律で規定されていたからだ(人種間結婚の禁止法など)。
 差別が歴然と存在していた間、黒人はいつも奴隷扱いであった。それは今から約150年前の南北戦争最中に、第16代リンカーン大統領が奴隷解放宣言を行なったことでも公然の事実として受け止めることができる。
そして、その宣言をしても相変わらず白人至上主義者は存在し、白人は黒人に限らず有色人種を下に見た社会を構築していった。奴隷制度を解除しても彼らに公民権を与えない・・・つまり公職には就けず参政権も選挙権も無いという扱いで彼らをアメリカ国民としていた。「自由の国アメリカ」と呼ばれることが多いが聴いて呆れる話だ。
つまりは、国力は安い賃金で労働する黒人によって成り立つという観点から、「奴隷」と言う言葉を外したに過ぎなかったのだ。
 ミシシッピの農場で指を血だらけにしながら綿花を摘む黒人労働者は、労働歌としてブルースを生んだ。貧弱なアコースティックギターを奏でながら生死を彷徨う心の叫びは、デルタ地区の過酷な土地が生み出した魂の歌である。
 そのような黒人の叫びは奴隷解放宣言から約100年後の1963年のキング牧師を中心とした公民権運動となり、1964年の公民権法の制定で法律上の差別は無くなったが、その後も相変わらず生活上での差別は無くならなかった。
 
 音楽に目を向けると、その昔、ビルボードが「レイス・ミュージックチャート」と呼ぶ黒人専門チャートを作っていたが、1950年頃からリズム&ブルースという言葉に変わり、それはソウルミュージックという言葉に変換されていった。これは黒人音楽の変遷のひとつであるが、そんな黒人の作り出すグルーヴに共感を得た白人が作り出した音楽がある・・・。
「ブルー・アイド・ソウル」・・・つまり黒人には青い眼がいないことから白人が演奏する黒人のような音楽のことを総称する言葉。
1960年あたりから出てきたこの音楽で一気にアメリカのポピュラー音楽は花開いたと言ってもいいだろう。
白人至上主義者は、黒人の音楽の良さを知ろうとしないし、黒人の作る音楽を同じラジオ番組から流されることに不快を示していた。ブラックチャートなど、もってのほかである。しかし、このブルー・アイド・ソウルの出現は画期的だった。
 ジェリー・リーバーやマイク・ストーラーのコンビは黒人白人分け隔てなく名曲を制作したし、ジャニスもボズもローラ・ニーロもみんなブルー・アイド・ソウルである。それこそ海を渡ったイギリスのザ・ローリングストーンズもアニマルズもスタイルカウンシルもシンプリーレッドもみんなみんなブルー・アイド・ソウルだ。
音楽に色は着いていない。
 そもそも音楽のジャンルなどレコード会社が勝手に作ったもので、音を楽しむ主体はリスナーである。販売目的のためのただの「言葉」に縛られること事態がナンセンスで、作り手もこれに悩まされることが多いのだ。
特に軽音楽の世界は歴史も浅く、「ロックンロール」という形態(ジャンル?)が生まれてから70年も経っていない。その起源がビル・ヘイリーなのかバディ・ホリーなのかチャック・ベリーなのかは置いておいて・・・つまり、それがどうしたということだ。
何度も書くが、音楽に色は着いていない。

「黒人が考え出して、白人が儲ける・・・」こんな言葉が黒人社会の中で語られていた時、最後まで人種差別の厳しかったミシシッピ州出身で、小さい頃から黒人に囲まれて育ったミュージシャンこそエルビス・プレスリーである。
彼の歌い方やダンスは「卑猥」と顰蹙を買い、テレビでは腰の動きを映されなかった逸話などまさに黒人のグルーヴを宿したアーティストである。
エルビスが醸し出す毒のあるパフォーマンスが一気に全米に広がり、それは海を渡ってヨーロッパにも広がった。全世界にそのムーブメントを広めたエルビスは、黒人の文化の伝承者としてブルー・アイド・ソウルなどと叫ばれる前に黒人音楽を租借し、その範疇を超え、その勢いが音楽という文化だけに留まらず、黒人開放への一助を担ったと言っても過言では無いだろう。

 U2のボノが以前インタビューで応えている。
「エルビスには2つの文化が混ざり合うという面白い瞬間がある。
白人音楽のメロディやコード進行というヨーロッパ文化と、黒人音楽のリズムというアフリカ文化が出会ってあのような体の動きをさせたこと。この瞬間からビートルズやローリング・ストーンズが生まれたんだ。原点はエルビスだよ。そして政治家にも黒人が進出したろ、戦争をするブッシュより平和を語るオバマを支持するね」

 政治家は真実を隠すために嘘をつき、芸術家は真実を伝えるために嘘をつくこともある。
 時代を創ったミュージシャンこそアーティストと呼ぶに相応しい。
「音楽」という文化で政治までを変える一端を担った稀有な事象として捉えてよいだろう。これがエルビスの功績である。

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2017/5/2
花形
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by yyra87gata | 2017-05-02 11:39 | 音楽コラム | Comments(0)