浪人時のスクェア

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 最近、娘(次女)から「パパは浪人して大学に入ったんでしょ」と言われたので、「浪人とは大学に行くためにがんばる人のことで、アタシはがんばっていなかったから浪人とは言わない」と言ってやった。「でも、ママとその頃出会ったんでしょ」と食い下がってきたので、「ママは勉強しに図書館に通っていたが、アタシは図書館の横の児童館で毎日卓球していて、飽きると図書館で本を読んでいたんだ」と答えた。

そんな会話を聞いていた家人は、

「あなた、本当に勉強してなかったの?」と今更ながらの質問。

「あーそうだよ。何をしていいかわからなかったからね・・・。図書館だから好きな本は読み放題だしね。飽きたら近くの名画座で映画を死ぬほど観てたなぁ」なんて答えたら、マジでドン引きされた。

「じゃ、なんで大学行ったの?」なんて聞いて来たから「面白そうな大学を見つけたから」って答えたら、娘が大笑いしていた。

「結局やりたいことしか、やらないんだよね~、私とパパは・・・」なんてしみじみ言いやがった。

しかし、あの頃はなーんにもしていなかったな。

外に出ない時は、家でずーっとテレビを観てた。

朝の「ワイドショー」、昼の「笑っていいとも」に続き、午後は、ほぼほぼドラマの再放送なんだよね。

でも、我が神奈川県のテレビ神奈川だけは攻めてたね。

ま、予算がそんなに無いからMTVや公開録音の映像をダダ流しするだけなんだけど、そんな音楽番組の中で、「ミュージック・トマト」っていうのがあって、みんな「ミュートマ」とか言ってた。

で、そこでやたらと流れていたのが日本のフュージョンバンドのスクェアだった。

スクェアの名前を初めて認識したのは、1970年代後半に音楽誌「新譜ジャーナル」で読んだ松任谷由実ライブレポートで彼女のバックバンドだったということ。そして、その後レコード屋で見た彼らのアルバム『脚線美の誘惑』(1982)のアルバムジャケットが妙に艶っぽいという印象以外無かった。

だから、「ミュートマ」でヘビロテしていたアルバム『ADVENTURES』(1984)は、初めてちゃんと聴いたスクェアだった。

当事のフュージョンバンドといえば、カシオペアやプリズム、KYLYNなどがテクニック重視、そこにパラシュートやなにわエキスプレスなどが加わり混沌としていた中、スクェアはこのADVENTURES』でジャズ・フュージョンチャートでは無く、一般チャートで8位を記録した。わかりやすいジャズというか、それは一つ間違えればイージーリスニングになってしまうくらい心地よいメロディーであり、時代的もシャカタクなどが全世界でヒットしていたことから、「時代の音」だったのかもしれないな。

とにかく毎日流れていたので、安藤まさひろのギターソロが歌えるまで聞き込んだわ。というか、スピードラーニング状態。

ADVENTURES』(1984)は聴きやすいアルバムで、日本のフュージョンアルバムの中でもテクニックだけに走ることなく、とてもメロディアスな楽曲が多く収録されている。

それはリリコンを奏でる伊東たけしがまるで歌っているかのような、それはヴォーカルアルバムのような、そんな印象のアルバムなのだ。

リリコンの仕組みは良くわからないが、グリッサンドの音がサックスのそれよりクラリネットのそれに近い気がする。つまり、ベンディングというかギターでいうところのチョーキングと言うのか・・・。

強いビートでは情熱的になり、スローではむせび泣くような音になる。

冒険者(ADVENTURESというコンセプトで進む楽曲。

明るいビートでキャッチーなメロディラインの「ALL ABOUT YOU」、旅情の雰囲気の「Cape Light」、大団円の「Travelers」と聞き応え十分である。

その後スクェアは、私が大学に入った年には『RESORT』(1985)を発表。CMやテレビ番組のテーマソングなど様々なタイアップで名を馳せて行く。『SPORTS』(1986)と続き、F1のテーマソングで有名な『TRUTH』(1987)で昇華。リリコンもここまでなんだよね。

その後もバンドは続くんだけど、屋台骨の伊東たけしが脱退したり、サックスやキーボードもメンバーチェンジが激しくなり、どちらかと言うとギターの安藤正容のプロジェクトみたいになってきたね。

 

 振り返るとなーんにもしていなかった2年間でリアルタイムに聴いたアルバムってスクェアだけかもしんないね。古いジャズやブルーズ、ウッドストックに出ていた連中のアルバムしか聴いていなかったから、スクェアの音が妙にキラキラしていたね。そりゃ、明日もわからんモラトリアム人間がウキウキした音楽聴いてても様に成らんしね。

 今、聴き直すと、リチャード・クレイダーマンみたいなイージーリスニングに聴こえるな。アレンジの古さかな・・・。なんか、田舎のおじいちゃんの家に行ったみたいな感覚だわ。
あ、これ、アタシなりの褒め言葉よ。
しかし、次女の言葉・・・
「結局やりたいことしか、やらないんだよね~、私とパパは・・・」ってなんか重いな。


2019/3/13

花形


# by yyra87gata | 2019-03-13 18:09 | アルバムレビュー | Comments(0)

   

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   2018年12月19日に偉大なるベーシストであるジョー・オズボーンが鬼籍に入った。

81歳であった。

晩年は膵臓癌との闘いだったそうだ。

山下達郎のラジオ番組「サンデーソングブック」でも追悼特集が組まれていたが、アメリカ近代音楽の中でも、とても重要なミュージシャンであった。

レコーディンググループ「レッキング・クルー」において数々のミュージシャンとのレコーディングは、ビルボードTOP40に200曲以上もランキングされ、レコーディング曲数も数千曲に及ぶという。

まさにスタジオミュージシャンの神である。

 

  同世代のハル・ブレイン(ドラム)、ラリー・ネクテル(キーボード)とリズムセクションを組み「ダンヒル・リズム・セクション」と名乗り、数々のレコーディングを行なう。

デビュー間もないカーペンターズのサポートから大ヒット曲「クロース・トゥ・ユー」のプレイ。サイモン&ガーファンクルの大ヒット「明日にかける橋」やその他もアソシエイションやママス&パパス、アメリカなど60年代から70年代のアメリカサウンドの核を創った功労者である。

 

 私がジョー・オズボーンとハル・ブレインのリズムセクションを意識したのは、フィフス・ディメンションの「アクエリアス~レット・ザ・サンシャイン・イン」(1969)である。

この曲は1968年のブロードウェイミュージカル「ヘアー」の主題歌として有名であるが、私の高校時代に「ヘアー」の映画が製作され、話題になった。そしてこの映画を見たことで、私の中に化学反応が起き、それからどっぷりとヒッピーの世界に入り込んでいった思い出の曲なのだ。


 最初は圧倒的なコーラスワークとその歌詞に惚れ込み、フィフス・ディメンションの声ばかり聴いていたが、よくよく後ろのリズム隊に耳を傾けるとなんと表情豊かなサウンドか、と姿勢を正したものだった。

黒人コーラスグループ特有の張りのあるヴォーカルは決して演奏に埋もれることが無いので、ハルもジョーも思いっきりドライブしたグルーブが出せたのだと思う。それは、カーペンターズアソシエイションのリズムとは明らかに違う表情を見せているのだ。

そして「アクエリアス~レット・ザ・サンシャイン・イン」の完成度は、このミュージシャンたちでなければ出来なかったであろうと思うくらいの高揚感がある。

   ディストーションなんて要らない。ツインバスドラも要らない。ベースのフレーズとドラムのコンビネーション、そしてソウルフルなヴォーカルだけで十分だ。

   この曲は高校時代の私のバイブルで、今でもシングル盤をターンテーブルに良く乗せる。

そして私はこの曲が好きすぎて自分の結婚式の退場の音楽に使った。

   厳かに両親への花束を贈り、挨拶をし、列席のお客様をお見送りする時にスピーカーから怪しげなイントロが・・・。

「ウェンザムーン イズ・イン・ザ・セブンスハーウス」なんて流れたから、知っている人はびっくりしただろう。ま、結婚式には絶対流れない歌だろうね。

奥さん、よく許してくれたよね。

あの当時、みんなホイットニーとかドリカムとか流していたからね・・・。


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Aquarius ~Let the sunshine in

 

When the moon is in the Seventh House

And Jupiter aligns with Mars

Then peace will guide the planets

And love will steer the stars

This is the dawning of the age of Aquarius

The age of Aquarius
Aquarius! Aquarius!

Harmony and understanding

Sympathy and trust abounding

No more falsehoods or derisions

Golden living dreams of visions

Mystic crystal revelation

And the mind's true liberation

Aquarius! Aquarius!


Let the sunshine,

Let the sunshine in

The Sunshine in

Let the sunshine,

Let the sunshine in

The Sunshine in


 

アクエリアス(輝く星座)~レット・ザ・サンシャイン・イン

 

月が第7宮にあり 木星が火星と直列となるとき 

そのときこそ、平和が惑星たちを導くことだろう

そして愛が星々の舵を取るのだ

いまは水瓶座の時代の夜明けのとき

水瓶座の時代だ

アクエリアス! アクエリアス!

調和と理解と

共感と信頼が満ち溢れる

インチキやまがいものはもうおしまいだ

光り輝く活き活きとした夢の光景

神秘的で筋道がしっかりとある黙示

そして心の真の解放

アクエリアス! アクエリアス!


陽の光を

太陽の輝きを差し込ませよう

陽の光を僕らの中へ!

太陽の輝きを

陽の光を入れるんだ!

さぁ!太陽の光が差してくるぞ

 

 

ジョー・オズボーンさん、輝く星座に還ってブイブイ弾いてください。

 

2019年1月31日

花形


# by yyra87gata | 2019-01-31 20:15 | 音楽コラム | Comments(0)

中学性音楽日記


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 中学生の頃って本当に性について興味津々だったわけ。
そりゃそうだよね、そういう年頃なんだから。

だから、ちょっとでもエッチなテレビや写真などに反応してしまい(昔は深夜番組に限らず、おっぱいがテレビから流れていたんだよ)、それはすぐに学校で話題になっていた。

そんな時だよ、友達のU君が血相を変えて1枚のアルバムをもってきた。

「兄貴のレコード棚に、こ、こ、こんなものが!」

スコーピオンズの『狂熱の蠍団 ヴァージン・キラー』(1976)!

なんとも言えないジャケット。中学1年の私たちはアワアワと言葉にならない言葉を繰り返すのみ。

ま、そこからスコーピオンズを聞き始めるきっかけにはなったんだけど、何ともねぇ。

後日、アルバムを購入し、家で聴く時も親の目を気にしたりして・・・エロ本と同じ感覚だ。


 そして、そうこうしているうちにテレビから下着姿のお姉ぇちゃんが股を広げて歌っているやないですか。

そうです、ランナウェイズの登場です。

『悩殺爆弾〜禁断のロックンロール・クイーン』(1976)。

凄い邦題だね。悩殺爆弾って・・・。

ヴォーカルのシェリー・カーリーがコルセットとガーターベルト姿で股を広げて

「チェチェチェチェチェチェチェチェ・チェーリ!ボーム!」って叫んでんのよ。

なんだか中学生のアタシは正視できなかったのよね。

思春期でもあり、女の子と話すこともだんだん意識し始める時に、いきなりランナウェイズの悩殺爆弾はいかんだろ。

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そういう時って、音楽好きの友達はいろいろと話を持ってくるのよ。例えばアタシが吉田拓郎を好きになったきっかけのひとつに『青春の詩』(1970)ってあるのね。

「お前、拓郎が好きとか言ってな。これ知ってるか?」といって友達が『青春の詩』のシングル盤を貸してくれたわけ。

ま、面白い歌で、

「喫茶店に彼女と二人で入って、コーヒーを注文すること あーそれが青春」

「繁華街で前を行くイカシた女の娘を ひっかけること  あーそれが青春」

といったC調の歌詞や

「飛行機のっとり 革命叫び 血と汗にまみれること   あーそれが青春」

「フォークソングにしびれてしまって 反戦歌を歌うこと あーそれが青春」 

という時代を反映した歌詞もある中で

「セックスを知り始めて大人になったと 大喜びすること あーそれが青春」

といった若者のホンネの部分を包み隠さず歌ってしまっていて、そういうところに人生経験の浅い中学生は衝撃を受けてしまったりしたわけ。

 あー、もう歌詞に書いてあるんだから声を大にして歌っていいんだ、なんて思ってしまい、セックスなんてしたことないのにわかったような顔して大声で歌うという、今から思うと恥ずかしい体験もしたわけでありますな。


音楽と性という結びつきは、歌詞の意味がダブルミーニングだったりすることがよくあるパターンなんだけど(ストーンズとか得意だね)、中学生のアタシは即物的というか本能というか、「女の裸=スケベ」なんて具合に行っちゃうからわかりやすいったらないね。

みんなも国語辞書で意味も無くスケベな単語を調べたことあるでしょ、あんなもんよ。

だから、スコーピオンズもランナウェイズも拓郎も未だに好きだもん。

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で、最後にブラインド・フェイスね。


『スーパージャイアント』(1969)。


これはエリック・クラプトンがクリームを解散して、スティーブ・ウィンウッドやジンジャー・ベイカー、リック・グレッチと組んだバンドで、「マイ・ウェイ・ホーム」とか「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」などといった名曲が収録されているんだけど、これもまた凄いジャケットでね。

ま、親と一緒に聞けない部類のやつだったね。

で、こういう類のアルバムジャケットでキャーキャー言ってた中学時代でしたが、高校生になり都心の輸入盤屋などに行くようになると、ソウル系やブラコン系などのジャケットはそんなんばっかなのね。で、スコーピオンズやブラインド・フェイスのようなロリータではなく、大人の女の人なのよね。でもって、艶っぽい。


それからは、ブラックも聴くようになるというわかりやすさ。

あー、女の人に支配されてきた音楽人生なのでありますな。


わかりやすい。


新年1発目がこれでいいのか・・・。


2019122


花形


# by yyra87gata | 2019-01-22 12:18 | 音楽コラム | Comments(0)

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 私は1991年12月に結婚し、新婚旅行はブラジルに行きました。
当時、日本ではまだJリーグも発足されておらず、ブラジルが今ほ
ど身近な国ではありませんでした。

せいぜいF1のアイルトン・セナが有名で、一般的にはコーヒーの産地とかプロレスのアントニオ猪木が幼少の頃、移民として渡った国、という印象。また、「未来世紀ブラジル」なんてSF映画もあり、果てしなく遠く、本当に地球の裏側はあるんだね、なんて印象でありました。
では何故ブラジルを選んだのか。
それは、家内の一言です。
リオに行きたい。サンバを見たい。解放的な国に触れてみたい。という単純なもの。
そして、どうせ行くなら日本人がいない場所に行きたいと・・・。

ブラジルは日系の人も暮らす国なので日系2世の多いサンパウロは選ばず、リオ・デ・ジャネイロとアマゾン川の中域に位置する都市マナウスの2都市を選択しました。
 リオは、コパカバーナビーチやコルコバードの丘(キリストの巨大な像)、サッカーの聖地マラカナンスタジアムなどがあり、どこを訪ねても日本人の若い男女が来たということで珍しがられました。
 マナウスはリオから国内線で4時間ほど北上します。アマゾネス州に属し、アマゾンのジャングルの中に位置する都市で19世紀には天然ゴムやジュート、コーヒー豆で栄えました。スペインやポルトガルからの移民が多く、市街地にはコロニアル設計の建物が並びます。そして、ここがジャングルの中にあるということを忘れさせるくらい近代的な都市でした。

その中のホテル、トロピカル・マナウスでの出来事。

トロピカル・マナウスはマナウスの中で一番高級なホテルで、5つ星のホテルです。

宿泊客も欧米からのリゾート客が占めており、年齢もリタイヤした老夫婦やビジネスで成功を収めた人といった感じの方が多く、私たちのような東洋の20代のカップルがいる場所ではありませんでした。しかし、物珍しげに接してくる彼らと話しているうちに打ち解けて来て、すぐに和やかな雰囲気になりました。こういったところもラテン系の良いところかもしれません。

ディナーはプールサイドでした。

ブラジルの美味しい肉を使った料理と強力なアルコール度数のピンガというラム酒で気分も良くなります。BGMはクラッシックギターの生演奏。とても落ち着いた雰囲気でありました。

年老いたギタリストはなにやら言葉を発し、ある曲を演奏し始めました。

クイーンの「LOVE OF MY LIFE」です。

静かなイントロから徐々に盛り上がる曲の構成。いつの間にか、私は口ずさんでいました。

そして、周りを見ると他の客も歌い始めているではありませんか。

歌詞カードなど配られていないのに。そのうち給仕しているウェイターやウェイトレスも呟くように歌っているのがわかりました。

クイーンは南米で大人気のグループです。特にフレディー・マーキュリーは南米人の好みの顔だそうで、短髪に髭、姿勢が良く、マッチョな姿で歌が上手いときたら100点満点の男なわけです。

そして、その日は、フレディーが亡くなって1ヶ月後のクリスマスの日だったのです。

ギタリストは続けて「SOMEBODY TO LOVE」を情熱的に弾いています。

神に祈る人、涙声で歌う人・・・

ポルトガル語で話していたので、正確なことはわかりませんが、フレディーを亡くした悲しみと追悼の意を表現していたと思います。

とても感動的なディナーでありました。

食事を終え、私はギタリストに歩み寄り“It’s a good performance! I love QUEEN.”と笑顔で伝えると、

ギタリストはしわくちゃの笑顔でうなずきながら、

Another One Bites the Dust”(地獄へ道連れ)のリフを弾いてくれました。

私は笑いながら天を指し、

Another One Bites the Heaven”と歌ったら大笑いしていました。

南十字星が光り、フレディーが亡くなったことを実感した夜でありました。

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2018/12/14(明日が27回目の結婚記念日だ・・・)

花形


# by yyra87gata | 2018-12-14 11:24 | 音楽コラム | Comments(0)

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 1126()2150分。

東京国際フォーラムは満員の歓声に包まれていた。

SONGS & FRIENDS 小坂忠「ほうろう」と題されたコンサート。このコンサートのプロデューサーである武部聡志のピアノをバックに小坂忠は、最後の歌「You Are So Beautiful.」を歌いあげた。

優しく伸びるヴォーカルと一緒にピアノの音が漆黒の闇に溶けていき、それが無音になったと同時に会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

それは、まさにミラクルの瞬間だった。

総合演出の松任谷正隆はコンサートの企画段階で小坂忠に次のように告げたという。

「このコンサートは名盤「ほうろう」を制作したミュージシャンがこのアルバムを次の世代に継ぐため、コンサート開催したいということ。そしてもうひとつ裏テーマがあり、それは(忠さんを取り巻く)ミラクル(奇跡)を起こすということです。」

コンサートは舞台を教会に見立て、鬼無宣寿ゴスペルクワイアがアカペラで歌う「You Are So Beautiful.」から始まった。

声という楽器。身震いするような音圧が会場を包んだ。

その中で音楽プロデューサーの武部聡志はこのコンサートの趣旨を説明した。

1975年発表の小坂忠『ほうろう』という歴史的アルバムのもつ凄さを、そして小坂忠という人物について・・・
小坂忠を取り巻くアーティストやミュージシャンが総勢30名集まり、1960年代後半から活動を始めた彼の歩み、アルバム『ほうろう』の全曲再現。
そしてそこには次世代のミュージシャンも加わり、小坂忠の音楽を若い解釈で実演する試みもあると。
これは、日本の軽音楽の歴史の1ページになると確信した。

 トップバッターは小坂忠の愛娘のAsiahが、武部聡志のピアノをバックに歌った。

小坂忠の最初のミラクルの張本人。

小坂がコンサート中のMCでも話していたが、アルバム『ほうろう』を制作し、そのコンサートツアーも大成功に終わり、家でくつろいでいた時にその悲劇は起こる。

娘が熱湯を頭から被ってしまう事故が起き、生死を彷徨ったという。

幸せから絶望の淵に堕とされた。

小坂忠は祈ることしかできなかったという。そして近所のおばあさんから言われ、教会に通い、祈ったという。

神の啓示を受けたかどうかは、本人しかわからないことだが、そこでミラクルが起きる。

1ヶ月後、娘は元気に復活したのだ。
小坂忠はそれまでの音楽活動を断ち、教会活動に没頭する。愛を与えられ、娘は復活した。今度は自分が他人に愛を与える番であると。
そして彼は牧師となり、それは今でも続いている。
 

 コンサートは『ほうろう』に至る前、たった1年間だけ活動していた小坂忠とフォージョハーフの再結成の演奏となった。

ドラム:林立夫、スチールギター:駒沢裕城、ベース:後藤次利、キーボード:松任谷正隆。(サポートコーラス:佐々木久美、佐々木しおり、今井マサキ)

まだ、小坂忠が自分のヴォーカルスタイルを模索しているときの作品が披露された。

『ほうろう』は小坂忠のソロ4枚目のアルバムである。それまでのヴォーカルスタイルは細野晴臣とのコラボレーションの印象が色濃く、演奏もどこか“はっぴいえんど”の延長線上にあるような作風であった。だから独自のヴォーカルという感覚が無かったのかもしれない。(ちなみに当初“はっぴいえんど”のヴォーカルは大瀧詠一ではなく小坂忠という噂もあったが、小坂がミュージカル「ヘアー」のオーディションに合格してしまったことからこの話は無くなったと言う)
フォージョハーフをバックに歌う小坂忠はノスタルジックなカントリーの趣があり、松任谷正隆が好むザ・バンドの影響がここかしこにあらわれていた。

 次のセクションで音は一変する。

ドラム:屋敷豪太、ベース:根岸孝旨、ギター:小倉博和、キーボード:武部聡志のハウスバンドにさかいゆうや田島貴男、槇原敬之、CHARなどを加え、小坂忠よりも一世代も二世代も下のミュージシャンが彼らなりの解釈で小坂忠の音を披露した。誰もが小坂へのリスペクトを述べ、音で、歌で、応えていた。
 このセクションの特筆は屋敷豪太のドラムである。タイトなリズムが43年前のアルバムの作品を今の音に変えているのだ。アレンジは屋敷豪太のアイデアであるとさかいゆうもMCで話していたが、それはそれは客を飽きさせない演出であった。
観客の目的は小坂忠の歌を聞きにきていることが大半だろうが、こういう優れたカバーを出されると嬉しくなるものである。

アコースティクセクションでは小坂忠が登場。

荒井由実、矢野顕子(アルバムでは鈴木晶子名義)がピアノで小坂忠を支える。

ユーミンもアッコちゃんも小坂忠の前ではティーンエイジャーに戻ってしまう。そして、BIGIN、高橋幸宏を迎え、現在の小坂忠の活動も披露された。


ラストセクションはアルバム『ほうろう』の演奏。

ドラム:林立夫、ベース:小原礼、ギター:鈴木茂、キーボード:松任谷正隆、武部聡志、パーカッション:浜口茂外也

「ほうろう」のアーシーな演奏。ギターの鈴木茂は最近でも一番小坂忠と活動しているミュージシャンであるが、とにかく歌をサポートするギターの素晴らしさは芸術的である。

レコードのまま。いや、レコード以上の心地よい緊張感が会場を包んだ。

小坂忠はMCでこの『ほうろう』というアルバムをこのメンバーで制作できたことが、ミラクルであると言った。奇跡のようなアルバムだと。自分の歌い方がはっきりとわかった、そんなアルバムだと。そんな奇跡のアルバムを制作したプロデューサー細野晴臣を呼ぶと、彼はベースを構えた。

次々とゲストが登場して歌に彩を添える。

吉田美奈子はレコードではシュガーベイブと並んで重要なコーラスパートを担っていた。その迫力を増した声が会場に木霊する。

尾崎亜美は小坂忠が病に倒れたとき、彼の復活を祈りながら代役でコンサートを受け持ったことがあるという。その時のことを思うと今がミラクルだと言った。

小坂忠のMC

「昨年自分の身体に癌が見つかりました。ステージ4と言われました。大腸、胆のう、胃の3箇所に見つかったのです。それを全部摘出しました・・・リハビリを行い、復帰しました・・・」

現在70歳の小坂忠が通る声で話す。私は舞台セットを見直しながら、これはミサであると思った。牧師の小坂忠がそこにいた。
「人間が絶頂に楽しい時から、いきなりどん底に堕とされること。これを奇跡と呼びません。どん底から這い上がった時を奇跡といいます。私はこれまでに3回の奇跡を起こしたと言ってもいいでしょう。奇跡のアルバムの制作、娘の身体の奇跡、そしてこうやって皆さんの前で歌っている奇跡・・・」

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祈りと願いは似ているようで正反対のことである。

祈りは他の幸せを想う温かい心で、そこに見返りを求めない。

対して、願いは自分の想いを対象に飛ばす行為で、見返りを求めるから欲やエゴにより陰の波動となる。

私たちが初詣や神頼みをするとき、それは祈りではなく願いということだ。

宝くじが当たりますように・・・

彼氏ができますように・・・

痩せますように・・・

これは祈りではなく「お願い」である。

特にキリスト教では祈りは神の言葉を聞いて、それに基づいて祈る事で私欲による成就を願うより、信仰に基づいた「決意表明」としている。

小坂忠が娘の身体を思って祈ったこと・・・

娘の身体が元にもどり、幸せな家庭が再び作れるように私は全身全霊で祈ります。そして、神のご加護を感謝し、再び仲間と笑顔で過ごしますと決意表明をしたのではないだろうか。

小坂忠自身が病に倒れた時も、神に感謝の気持ちを忘れずに、再び舞台で歌い上げる姿を想像しながら祈り続けたのではないだろうか。
今がどうだとか、どうやってもこの願いは叶わないと思うことでも、望む未来を確定するとその未来に向かって行けるように必要な物や事柄がもたらされ、その結果、願いは叶い、奇跡が起きるのだと思うのだ。
カーティス・メイフィールドの「People Get Ready」を演奏していたとき、歌詞の中の「この列車に乗り込めばいい・・・この列車が幸福の国に連れて行ってくれる」とあることを思い出した。列車に乗り込むことが祈りなのである。

アンコールはミュージシャンが全員集まり、「ゆうがたラブ」の大セッション。

ギタリストもドラマーもベーシストもみんなでソロ回し。ヴォーカリストは「げっかーすいは!」「もっきんどーは!」のコーラスで応酬。

出演者みんなが笑顔で演奏していた。

熱い演奏が終り、ミュージシャンが小坂忠にハグを求め、全員が舞台裏にはけたあと・・・

小坂忠は最後の歌「You Are So Beautiful.」を歌いあげた。
その瞬間・・・彼にとって4回目のミラクルを会場全員が感じた夜となった。このコンサートがミラクルである!


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以上
2018/11/28
花形



# by yyra87gata | 2018-11-28 20:04 | コンサートレビュー | Comments(0)