『ランニング・オン・エンプティー』 ジャクソン・ブラウン
2012年 12月 15日
ピアノとギターを中心とした構成で、淡々と進んでいく。但しどの曲も重く、1曲目のタイトル曲は悲しい失恋の歌であるが、単純に男と女が別れると歌っているわけでなく、「2人の思い出が崩れていく・・・」といった悲壮感が漂っている。よくもまぁこんな重い曲を1曲目にしたなぁと思うほどだ。同じことが「The Late Show」という曲にも言える。別れの情景を描いた作品だが、エンディングで車のドアの閉まる音の後、走り去る車のエンジン音が曲を盛り上げる。もう、何かの映画を見ている気にさせられ、空しさだけが残るのである。
僕は高校生の頃、ジャクソン・ブラウンに憧れた事がある。音楽ではなく、あのサラサラの髪の毛だ。僕の髪は太くて固くて多いので、ロングヘアーにするとヘルメットのようになってしまう。ジャクソン・ブラウンのサラサラとなびく髪は憧れであった。そして、落ち着いたメロディーを歌い上げる様など、僕に無いところばかりだった(たくろう好きはガナってナンボだかんね)。
しかし穏やかな好青年に映るジャクソン・ブラウンではあるが、芯はとても強く、完璧主義者である。完璧主義者であるがゆえに音作りに没頭し、1976年に正式に結婚したばかりの奥さんを「自殺」という形で失っている。この事件は彼自身相当ショックだったようで、その当時のアルバム『ザ・プリテンダー』(1976)に音という形で表れている。
ジャクソン・ブラウンの詞の特徴は万民に対するメッセージというより、内省的で日記のような詞が多い。しかし、その内容はあくまでも前向きであり、希望を持たせる詩が多い。「生きる」ということについての問いかけは、彼のソフトな印象とは裏腹にかなり鋭く描かれた作品も多い。彼にとって「歌う」ことは「生きる」ことであり、ライブはまさに「生き様」の場所なのだ。だから、このアルバムに収録されている作品は、それまでのどの作品よりも力強い作品が多いことが特徴だ。「生きている」ことに感謝しながらコンサートは進む。
このアルバムのラストに収められている「The Load-Out」と「Stay」のメドレーは、ずばりコンサートツアーというものを題材にした曲である。以前、生でライブを見た時、最後のこのメドレーでジャクソン・ブラウンはバックミュージシャンを紹介し、スタッフ(照明やミキサー、ローディーなど)が全員入れ替わり立ち代りでコーラスに参加した。観客への感謝だけにとどまらず、スタッフへの感謝も忘れないところが彼らしいと思ったものだ。
ちょっと落ち込んだ時『ランニング・オン・エンプティ』を聴くと、元気が出てくる。がんばらなくちゃ、と思う。そして、走り続けるために聞き続けるアルバムなのだ。
2005年7月22日
花形