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音楽雑文集


by yyra87gata

『ホールド・ユア・ファイアー』  ラッシュ

 
『ホールド・ユア・ファイアー』  ラッシュ_d0286848_1314857.jpg
 ファーストアルバム『閃光のラッシュ』で1975年デビュー。レッド・ツェッペリンの物真似、お子様用のロックバンドと非難され、決して幸先の良いスタートではなかった。しかしセカンドアルバムからドラムをニール・パートに替え、ゲディー・リー、アレックス・ライフソンとのトライアングルが完成する。そしてそのトライアングルは現在まで、約30年もの間ラッシュサウンドを奏でている。
ラッシュの70年代は、大作主義で10分を超える作品がアルバムに必ず1曲はあった。そしてそのテーマはギリシャ神話であったり、未来都市の盛衰であったりと、壮大な世界がそこにあった。そしてその詞を練り上げているのがニール・パートだ。ニールの中には、文字の世界とリズムの世界が融合されている。その難解な世界を組曲のように幾重にも連ね、一つの作品に仕上げることをアレックスとゲディが行なっている。
 80年代の作品からはベース兼ヴォーカルのゲディからシンセサイザーの音が頻繁に聞かれるようになる。シンセを弾く時は、ペダルベースやシンセベースでベースを代用しているが、時にライヴ中に左手だけでベースフレーズを出し、右手はシンセでメロディラインを弾いていることもあった。プログレとハードロックの中間に位置していたラッシュだったが、1980年を境にラッシュというひとつの音楽ジャンルになるくらいユニークな存在になっていった。そして大作主義は少なくなり、比較的コンパクトな作品が目立つようになる。これはアメリカ・マーケットを見据えたものであり、ラジオステーション用に曲書きを行なっているとの見方が多い。なぜなら、「スピリッツ・オブ・レイディオ」が1980年に本当に大ヒットしたからだ。
 ブルースに根付いたハードロックが幅を利かせていた70年代のロックバンドは80年代の流れに誰もついていけず、遭難し始めた。ツェペリンしかり、パープルしかり、バドカンしかり・・・。ポップなロックと打ち込みの軽さについていくことが出来るニューエイジが80年代に頂点に立つことになるのだ。しかしポリスは80年代初頭で活動を停止し、音楽地図はFGTHやデュランデュランに席巻されていく。ロック魂を持ち合わせた往年のビッグネームは一休みを決め込み、ブルース・スプリングスティーンとU2だけが気をはいていた。その頃ラッシュは独自の道をひたすら走っていた。ジャンルが違うというなら、プログレと比較してみよう。80年代、イエスやムーディーブルースは安定していたか!カンサスは!クリムゾンは!みんなメンバーチェンジや活動停止などの山あり谷ありの時期ではなかったか!
 ロックエイジからすると、80年代は魔の刻なのだ。すべてがお気楽で曖昧な味付けなのだ。そんな時代にもラッシュは自分達の音楽にこだわり続け、時代に迎合せず、しかし、時代の音をしっかり読み取ったサウンドを構築していた。僕はラッシュの新譜が出るたびに、いつも驚きとため息の連続で、生でこの演奏が聴いてみたいと心から思っていた。ラッシュは1984年に1度だけ来日しているが、その後は1度も日本の土を踏んでいない。いつもワールドツアーから外されている。いろいろな噂はあるが(日本人は英語がわからないから伝わらないとか、コンサートを行う規模のホールが少ないとか)、1番の理由は、コンサートツアーで家族と離れる時間が多くなることを嫌っているらしい。
 
 ラッシュはどのアルバムも薦められるが、僕はハイテク音楽の魁になった『ホールド・ユア・ファイアー』(1987)をあげたい。シンセやシーケンサーで埋め尽くされた音は、洪水のように溢れて聴こえるが、この80年代の集大成が、次作『プレスト』(1989)、『ロール・ザ・ボーン』(1991)などの空間を活かした新しいサウンドを引き立てることになるからだ。3人バンドの緊張感溢れる緻密な音作りは、クリームやジミヘンのようなそれではなく、いかに最新音楽機器との調和と融合を目指すか、そして立ち止まることなく進化し続けるかをテーマとして活動している感がある。どんなにハイテク器材を使おうが、3人のトライアングルは崩れることが無いことは、驚きである。最新作の『バイパー・トレイルズ』(2004)を聴いても3人の技術と最新技術は見事に調和している。30年選手が常に前を向いて、チャレンジしていることだけでも素晴らしいことだ。もちろん作品も二重丸。

2005年11月28日
花形
by yyra87gata | 2012-12-17 13:14 | アルバムレビュー | Comments(0)