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音楽雑文集


by yyra87gata

『スタンディング・トール』  ザ・クルセイダーズ

 「絶対保証する!良いから聴いてみな」と親戚の兄さんに渡されたアルバムのひとつにクルセイダーズがある。僕が高校生の頃、フュージョンが幅を効かせ始めた頃のことだ。その頃の僕は、ちょっとロックに冷め始めており、ウェザー・リポートやラリー・カールトンなどを聴いていた。技巧派というか、大人の音楽というか、ちょっと背伸びした音楽を聴いていた。ミュージシャンの演奏技術と超絶的なアンサンブルに興味がわき、フォークの弾き語りやロックの絶叫とは違った音楽を求めていた。ジャコは歌うようにベースプレイをし、ラリーはES335を唸らせる。クロスオーバーという言葉が認知され始めた頃だ。
クルセイダーズは、ジョー・サンプルのピアノとウィルトン・フェルダーのサックスを中心に音を形成する音楽集団である(結成時は他にスティックス・フーパー、ウェイン・ヘンダーソン)。結成は1950年代の初めに学生仲間でバンドを組んだことから始まり1961年に“ジャズ・クルセイダーズ”と改め、デビュー作『フリーダム・サウンド』を発表した。1971年にレコード・レーベルを移籍するのを機に名称を“クルセイダーズ”にチェンジ。4人のコア・メンバーを軸に、ラリー・カールトンやデヴィッド・T.ウォーカーらとテキサス・ファンクと呼ばれるスタイルを作り上げた。『ストリート・ライフ』(1979)でランディ・クロフォードを起用してヴォーカル入りの作品に取り組むと、タイトル曲が世界中で大ヒット。ビルボード誌の週刊チャートで21週間連続1位、2年連続で年間トップの座につけ、インスト&ヴォーカル入りのフュージョンバンドの頂点に立った。
そんな頃に僕は『ストリート・ライフ』と『スタンディング・トール』(1981)の2枚を渡された。『ストリート・ライフ』はシティ・ポップスの名盤としてクルセイダーズの代表作になった。大人の女性が都会の風を歌い上げるお洒落な作品に仕上がっている。
 『スタンディング・トール』はゲストヴォーカルとしてジョー・コッカーを迎え入れた作品で、ジョー・コッカーが切々と歌い上げるバラッドはブルージーな仕上がりになっている。ジョーはイギリス人だが、アメリカ南部の音楽に傾倒しており、スワンプミュージックと呼ばれるアメリカ南部音楽にも造詣が深い。ヴォーカルスタイルも搾り出すようにシャウトする歌唱法なので前作とがらりと変わった印象になっていた。僕は断然『スタンディング・トール』の方が気に入ってしまった。2曲参加しているうちの「明日への道標」のヴォーカルは超絶的に感動モノである。声という楽器が存在しているのだ。ジョーのアルバムにも入れて欲しい作品である。
このアルバムはベースにマーカス・ミラー、ルイス・ジョンソン、ギターにラリー・カールトンが参加しており、非常に豪華な顔ぶれが揃った作品になっている。その時々の旬なアーティストを起用し、1つの音楽作品を作り上げるバンドとして、クルセイダーズは成立しており、流動的な形がなんともジャズバンドという趣が、高校生の僕の心をくすぐった。この2枚から遡って聴き込んでいき、ウェザー・リポートにはないヴォーカルの可能性をクルセイダーズに見ていた。
 僕が大学のフォークソングクラブに入部した時に、新入生を歓迎するために開催されたライヴに招待された。そしてそこで先輩のバンドがクルセイダーズの「ソウル・シャドウズ」を演奏していた。ビル・ウィザースをゲストヴォーカルに迎えた『ラプソディー&ブルース』(1980)に収録されたブルージーなナンバーである。渋いサックスとシンプルなギター、タイトなリズムにブルージーなヴォーカルが絡むクルセイダーズのお家芸である。まさかフォークソングクラブで聴けると思わなかったので、痛く感激し、そのバンドが好きになった。
その後、僕はそのバンドに加入させてもらうことになるのだが、加入などせずに聴いていたいバンドだった。

2006年1月11日
花形
『スタンディング・トール』  ザ・クルセイダーズ_d0286848_1338287.jpg

by yyra87gata | 2012-12-18 13:38 | アルバムレビュー | Comments(0)