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音楽雑文集


by yyra87gata

『マーキームーン』  テレビジョン

 
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 1977年は、日本でもパンクの大ブームが起き、まずはそのファッションがマスコミに取り上げられた。今では珍しくないボロボロのGパンや穴の開いたシャツが出回り始めたのはこの頃である。みすぼらしい格好というよりも、既成の概念に反発する思想であり、イギリスの労働者階級の若者の叫びが直接音楽に結びついた産物である。
 ロングヘアーの前時代的なロックは、70年代半ばでは商業ロックと呼ばれ、体制の犬達の金儲けのネタに成り下がった。もともと、ロックは反体制の音楽として出生したはずが、いつのまにか体制側になっていた。そんな腑抜けたやつらと一緒に行動はできないぜ、とばかりにパンクスは髪を切り、ピンピンに立たせた。そしてカミソリと安全ピンが重要なアイテムになった。・・・触ったらケガするぜ!
 ロックの武闘派は、マッチョな体で鋲のついた革パンツや10cmブーツで強さを顕示し、“セックス・ドラッグ・ロックンロール”と声高に叫んでいた。
それに反し、パンクスはとにかくやつれていた。そりゃそうだ、労働者階級の叫びなのだから、リッチなはずが無い。やり場の無い怒りを単純に叫ぶだけだ。普段着のロックである。シニカルに言葉を並べ、社会の矛盾を嘲り笑う。
音楽性も単純明快。シンセサイザーなんてものはパンクに存在しない!・・・そう思っていた。

 パンクの話を友達としていたら、高校の音楽の先生がニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。
「ファッションから入るのもいいけど、この音楽は君達の間ではパンクという部類に入るかな?」と言ってレコードをかけてくれた。
テレビジョンの『マーキームーン』(1977)である。トム・ヴァーラインの詞に歪んだ音が融合し、なんともいえない雰囲気を醸し出していた。
詞の内容は、反体制もあれば、社会の裏側でうごめく人種、血、性癖、など多岐に及ぶ。社会性もあるが、人間の根源的な矛盾の方が目立った。
耳をつんざくトレブルの効いたエレキギターの音が神経を逆なでする。ピストルズと比べるとスピード感は無いが、同じ匂いがした。ギラギラした“何か”は同じである。
音楽のN先生は、芸大出の変わった音楽教師で、軽音楽からクラッシックまで幅広く聴いている人だ。音楽の授業中にも平気でロックを流すこともあった。音を通じて表現することに信念をもっており、“良いものは良い”と言う考え方の人。アヴァンギャルドなロックが好きな人だった。
テレビジョンは“ベルベッド・アンダーグランドの後継者”というふれこみでデビューした。ニューヨークパンクと呼ばれる範疇である。ニューヨークパンクはベルベッドやパティ・スミス、ラモーンズ、MC5に代表される音楽で、このテレビジョンがとどめをさした。詞の世界に重点が置かれており、単純に“満足できネェぜ!”と叫ぶパンクとは一線を画していた。音よりも言葉のインパクトが強いという印象がある。ルー・リードしかりパティ・スミスしかり。
 テレビジョンのトム・ヴァーラインは、パティ・スミスのアルバムにも協力し、一時はステディな関係だった。鶴のように細い首が印象的で、神経質に歌う。ソロで来日した時(1986)は、エレキギターで弾き語りを行い、体を震わせながらパフォーマンスを行なった。
 テレビジョンはトム自身であり、『マーキームーン』はニューヨークパンク最後の秘密兵器である。ニューヨークパンクのすべてのエッセンスが入った秀作である。“パンク=叫ぶ=うるさい=へたくそな演奏”と思っている人はこのアルバムをきいて考えを改めるべき。

2006年1月23日
花形
by yyra87gata | 2012-12-19 12:37 | アルバムレビュー | Comments(0)