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音楽雑文集


by yyra87gata

「ピープル・ゲット・レディ」 カーティス・メイフィールド

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 先日イベントで先輩のバンドが「ピープル・ゲット・レディ」を演奏していた。私、この歌が昔から好きで、今でも自然と口ずさむ歌なのだ。

 私とこの歌との出会いは、約30年前に遡る。中学3年の私は、昼飯代を切り詰めながら、中古レコード屋の「ハンター」に通う日々。1960年代、1970年代の名盤を買い漁り、聞きまくっていた。音楽雑誌のレコード評やアメリカの「ローリングストーン誌」などを見ながら、その時期に流行り始めたニュー・ウェイブには目もくれず、オールディーズを聴く毎日。この頃に聞いた音楽が今の自分の音楽形成の重要な位置を占めていることはまぎれも無い事実である。
 さて、「ピープル・ゲット・レディ」だが、この歌を初めて聴いた私の印象は、妙に引っかかる歌だなということであった。なぜなら、最初に聞いたヴァージョンがヴァニラ・ファッジのものだったからだ。
 ヴァニラ・ファッジはアートロックやサイケデリックロックのジャンルに属し、1960年代の後半に名を残したバンドである。リズム隊は有名なボガード&ピアスである。オリジナル曲よりも名曲のカバー主体のバンドであったが、どんな曲を演奏しても全てがダイナミック(大げさ)になり、元の歌のイメージを変えてしまうという特徴があった。ファーストアルバム『Vanilla Fudge(邦題は「キープ・ミー・ハンギング・オン」)』(1967)の中からシュープリームスのカバー曲「キープ・ミー・ハンギング・オン」が大ヒットし、その当時のロックバンドはこぞってこの曲をコピーしていたらしい(まだ、アマチュアの頃の細野晴臣や松本隆なんかが“はりきって”演奏していたらしい)。
そんなヴァニラ・ファッジのレコードを聴いていた私は、そのアルバムの中のひとつの曲に違和感を覚えていた。「ピープル・ゲット・レディ」の存在である。
このアルバムにはビートルズの「涙の乗車券」やゾンビーズの「シーズ・ノット・ゼア」も収録されていたが、明らかに歌の内容が「ピープル・ゲット・レディ」と異なっている。
歌詞も簡単な英語が並び、直訳すれば中学生の私でも理解できるものだったが、逆に深い意味があるのだろうということも感じていた。
「人々は何を準備するんだ?列車が来るけど荷物はいらないというのはどういうことだ?ディーゼルの音が聞こえ、神に感謝する・・・その列車はヨルダンに向かう・・・」
なんのコッチャって感じだった。
 私の中学・高校はカトリック系だったので、校内に神父がいた。そこで、仲の良かった神父に真意を尋ねてみた。するとイタリア人の神父は「ああ、この曲か」という感じでニコニコしながら教えてくれた。
まずもって、神父はこの歌はヴァニラ・ファッジではなく、カーティス・メイフィールドの歌だということを教えてくれた。黒人であるカーティスは公民権運動が華やかな1960年代半ばにこの歌を作り、黒人に支持されたということ。そして、この歌こそ神を信じる民の心の声ということを教えてくれた。
 1963年8月に、公民権確立を目指して計画されたワシントン大行進が行われ、人種を問わない20万人を超える空前絶後の人間がこのデモに参加した。デモ行進の終点となったリンカーン記念公園で、運動の提唱者マーティン・ルーサー・キング牧師の有名な演説「私には夢がある(I Have a Dream)」がなされたのだということも、この神父から聞いた話だ。
この歌詞でいう列車は、この時の人の列、もしくは信念を持った人々のことだろうし、ディーゼル音はシュプレヒコールだろう。そしてみんな荷物(武器やおかしな考え方など)など要らない。信念だけもって聖地に進むだけということを歌っているのだと意訳した時に、私はこの歌の虜になった。

 私が大学の頃、ジェフ・ベックがこの歌を取り上げた。アルバム『フラッシュ』(1985)は久々にヴォーカリストのバックに徹したアルバムであったが、プロデューサーのナイル・ロジャースとの確執も取沙汰され、まとまりの欠けるアルバムとなった。そんな中、唯一ジェフの拘りで実現した「ピープル・ゲット・レディ」は秀逸の出来であると思う。久々に復活したロッド・スチュアートとのコンビも非常に良い個性がぶつかり合って相乗効果を生み出しているし、何よりもこの歌を力強いものにしている。カーティス・メイフィールドはファルセットを多用し、ゴスペル調のそれであるが、ロッドはベックとともに壮大なロッカバラードに仕上げている。特にエンディングのロッドのロングトーンの雄叫びは、名演のひとつといっていいだろう。ただ、このPVはいただけない。誰がメガホンを取ったかわからないが、あまりにも直訳した映像で歌の深みが何も出ていないからだ。西部を走る貨物列車にテレキャスターを抱えたジェフが乗り込み、印象的なフレーズを弾いているというもの。これじゃ、私の中学3年レベルの映像でしかない。もっと歌詞を勉強してくれという感じ。

信念さえもてば、約束の地に向かう列車に乗れる。
その列車に乗るのに、荷物はいらない。

この普遍的なテーマをあのような流れるようなメロディで歌い上げられたら、みんな平和な気持ちにならんかな。

もういちど、歌詞を見てみよう。
歌詞を読むだけであのメロディが浮かんでくる。
これは名曲だ。
People get ready
There's a train a comin'
You don't need no baggage you just get on board
All you need is faith
To hear the diesel comin'
Don't need no ticket you just thank the Lord

So People get ready
Train to Jordan
Picking up passengers from coast to coast
Faith is key
Open the doors and board them
There's hope for all among the love the most

There ain't no room for the hopeless sinner
Who would hurt all mankind just to save his own soul
Have pity on those whose choices grow thinner
There ain't no hiding place from the Kingdom's throne

People get ready
There's a train a comin'
You don't need no baggage you just get on board
All you need is faith
To hear the diesel comin'
Don't need no ticket you just thank the Lord


荷物はいらない ただ乗ればいい
必要なのは信頼だけ そしてディーゼルの音を聞けばいい
チケットもいらない 神に感謝するだけでいいんだ

みんな ヨルダン行きの列車に乗る支度をするんだ
駅ごとに乗客を乗せながら 海岸沿いに列車は走る

信じる心が鍵さ
ドアを開けて 彼らを乗せよう
神を愛するすべての人のために席があるんだ

人類を傷つける望みなき罪人は
自分の事ばかり考えている限り 乗る場所はない
薄運の人たちには慈悲を与えてやろう
王国の王座から隠れる場所は どこにもないのだから

みんな用意するんだ  列車がやってくる
荷物はいらない 乗るだけでいい
必要なのは信じる心 ディーゼルの音に耳を傾けるんだ
チケットはいらない 神に感謝するだけ

俺は用意している
俺は用意している
今度こそ用意できてる
今度こそ用意できてるんだ

2010年12月18日
花形
by yyra87gata | 2012-12-26 16:32 | 音楽コラム | Comments(0)