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音楽雑文集


by yyra87gata

『タンゴ・イン・ザ・ナイト』 フリートウッドマック

 80年代はロック不毛の時代と言われている。録音技術や楽器、特にシンセサイザーの技術革新により音楽自体が変化した。
シモンズのドラムやシーケンサーなど、打ち込みとペラペラなシンセが軽い音楽となって街にあふれていた。ちょっとでも70年代風のロックテイストがあろうものなら、「古臭い」と全否定されてしまうのもあの頃の風潮だった。
あの泥臭い声のスプリングスティーンだって「ボーン・イン・ザ・USA」での軽さは時代の流れによるものだし、クラプトンだってフィル・コリンズと蜜月だった80年代はブルースシンガーというより恥ずかしいくらいのポップシンガーになっていた。
所謂60~70年代の確固たるアーティストがハードの技術革新により音楽性をも変えられてしまうというところに私は不満があった。私は、往年のアーティストは古臭い音の方がいいと言っているわけではない。技術に溺れ、自らの音楽が浄化できていないのでは、と感じていたのだ。
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 では、80年代の音楽は軽くて最悪かということだが、そんな中でも名盤はちゃんとある。
フリートウッドマックの「タンゴ・イン・ザ・ナイト」(1987)である。
前作の「ミラージュ」から5年の年月が経っており、当時のグループはフロント3人のソロ活動により実質冬眠状態。特にスティービー・ニックスのソロは華々しいものがあり、グループの解散を何度も噂されていた。そこへきて突然のアルバムリリース。
特に騒がれもせず、往年のビッグバンドがアルバムをリリースしたという事実しか報道されていなかったが、実際に音を聴くと・・・これがすごい。リンジー、クリスティーン、ニックスのバランスが絶妙であり、70年代の「噂」(1976)「牙(タスク)」(1979)を彷彿とさせるポップ感覚は、長年やっているだけあっていつの時代になってもちゃんとフリートウッドマックの音になっていた。
録音技術の革新はあるにせよ、音楽性が変わることなく音が跳ねている。そして、なによりも「聴きやすい」というところが一番の良さである。
 フリートウッドマックはもともとブリテッシュ・ブルース・バンドとしてデビューした。ピーター・グリーンというブルースギタリストが輝いていたが、ドラッグによる体調不良も手伝い戦線離脱。ボブ・ウェルチというアメリカ人のギタリストが加入し、ジャズロックのテイストとなるもセールス的にはイギリス国内に留まっていた。
 全盛期となる70年代半ば、バンドはアメリカ人とイギリス人の混成グループとなりコスモポリタンの音を奏で始めた。リンジー・バッキンガム、スティービー・ニックスそして初期からずっとフリートウッドマックのボトムを支え続けたジョン・マクビーの妻であるクリスティン・マクビーのフロントラインは、バンドを昇華させ、最高のポップグループを完成させた。
 70年代半ばからの彼らの活躍を見ればわかることだが、バンドにも良い時もあれば悪い時もある。しかも男女混成、夫婦関係など音楽とは離れた部分のコミュニティは時として複雑な事象を生み出し、活動が休止することもあった。
誰かがソロアルバムを発表すると「やれ、解散だ」と周りが騒ぎ立てることなども彼らは飽き飽きしていたに違いない。
そんな時に彼らの出した答えが『タンゴ・イン・ザ・ナイト』だったのだ。
前述したが、本当に最初はそれほどプロモーションも無く、突然発表されたように記憶している。当時愛読していた音楽誌のアルバムレビュー欄にも小さく掲載されていたし、「あのフリートウッドマックが復活!」なんて仰々しいコピーなどひとつもなかった。
レビューも冷静に感想を述べていたし、華が無い印象であった。
私は「それは、どんなマックだよ」という好奇心でアルバムを購入したと思う。
そして実際に聞いて見ると・・・。

ファンタスティック!マック!

2011年9月16日
花形
by yyra87gata | 2012-12-27 12:58 | アルバムレビュー | Comments(0)