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音楽雑文集


by yyra87gata

いまさらのパティ・スミス初来日公演1997

 ラジオから流れる最近の音楽。テレビから溢れるお笑いとジャニーズの薄ら笑い。そんなメディアに慣らされている日常。久々にレコード棚からパティ・スミスを取り出し、ファーストアルバム『HORSES』(1975)に針を落とした。
曇っていた目の前が開けた。耳を劈くノイジーな演奏だが、勢い、躍動、そして大らかさも兼ね備えたなんとすばらしいアルバムか・・・。
このアルバムが私とパティの出会いのアルバムであったが、初めて聞いたのは私が中学3年の頃だから1979年か・・・。
どちらかと言うと、もともとはパティ・スミスというよりアルバムジャケットを撮影したロバート・メイプルソープの方に興味があって、私は彼の写真を見ることが好きな少年だったのだ。その中の1枚がこの『HORSES』ジャケット写真。それがアルバムの購入動機だった。
 当時パンクはセックスピストルズの崩壊後、テクノサウンドに押される形となり停滞し始めていた頃だった。日本でパンクといえばイギリスで、ニューヨークパンクはどちらかというとわかりやすいイギリス人の労働者階級の怒りというより、「人種的」「性別的」「人間の根源」「観念」といった詩の世界を表現するマイノリティな音楽と捉えられていたのではないだろうか。それは、ベルベットアンダーグランドやルー・リード、MC5、テレビジョンあたりのことを示しているが、正直日本では流行らない音楽のひとつだった。なにせ、混沌とした詩の世界の中、キャッチーなメロディがあるわけでもなく、ポエトリーリーディングに即興で音を乗せたような音楽は、英語のわからない日本では受けるはずがないのだ。であれば、ピストルズのようにカミソリをピンセットで括って「アーイ・アム・ア・アンチ・キリストーッ!」って叫んでいる方がわかりやすい。
 さて、そんなわけでパティ・スミスなのだが、私は今まで多くのコンサートに足を運んできたが、コンサートを見てあまりにも感動し、その場でそのツアーの残りの公演のチケットを手に入れる。そしてもう一度、同内容のコンサートを観るという経験をしたのはこのパティ・スミスだけである。
最後の伝説の来日というふれこみであった。1997年1月8日、初来日公演を中野サンプラザで観た。
中学3年から待ち焦がれたパティの最初の姿を見たく、初日の公演を取った。
舞台に現れたパティはスリムな黒いスーツでふらふらとセンターに。そしていきなり復活の歌「People Have The Power」を声高らかに歌い上げたのだ。
ノックアウト!あんなに細い身体から倍音のような高音や男のように太い声も自在に出てくる。
詩の朗読やスクリーミングなど様々なパフォーマンスを経験しているパティだから表現力の幅がものすごいのだ。
私はシャウトしながらも、とにかくジッと観た。頭の中に焼き付けようと・・・。そして約2時間、脳内興奮状態に陥っていた。デビューから22年目の初来日であり、ベテランの域に達しているパティのステージは、ただの懐メロ歌手でなかったこと、それは新作『GONE AGAIN』(1996)の中から5曲、それに加え、新曲を5~6曲も演奏したことに尽きる。
 50歳を過ぎたパンクロッカーなんて、と思う人はあの空間には1人としていなかっただろう。私は50歳の少女がいると思ったくらい魅力的だったと記憶している。
そして、追加公演が発表され、すぐさまチケットをゲットした。
1月16日は私の誕生日。そんな日にパティの追加公演が恵比寿ガーデンホールで行なわれた。
もう、最初からキレキレのステージ。
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細身のスーツ姿。あの細い体から筋の通った太い声が良く出るなと改めて感心していた。
パティの音楽は多種。決して叫び続けるだけのパンクだけではないし、どちらかといえばそういう楽曲は少ないかもしれない。言葉を紡ぎながら切々と歌うタイプである。どちらかと言えば、ディランやモリソンに近い歌唱であろう。
 しかし、ビートががっつり入るとそこにはパティの世界が広がり、細い手をいっぱいに広げ慈愛に満ちたヴォーカルは聴衆を包み込んでいくのだ。
私は、ガーデンホールのだだっ広いフロアに独り立ちすくんでいた。
目の前の伝説は、シンガーだが、詩人であり、ミュージシャンであり、恋するオンナであり、母であった。
パティの壮絶な生い立ちをここで披露しても何の意味も成さないが、少なくとも自分に素直に生きてきた人であり、その人の言葉には説得力があり、そのパフォーマンスに嘘は無いと言うことだけは確かだ。

冒頭に緩い現状の日本の日常を書いたことを後悔した。
そんなものと比べちゃパティに失礼だわ・・・。

2014年7月21日 花形
Commented at 2014-09-13 16:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2014-09-25 09:02
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by yyra87gata | 2014-07-21 18:20 | コンサートレビュー | Comments(2)