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音楽雑文集


by yyra87gata

悲しみの雨の中、微笑むことが出来るか・・・ニール・セダカの1曲

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私は出張先のビジネスホテルで映画を良く観る。多い時では月に15本くらい観る時もある。

先日、出張先で観たクライムホラー映画。2016年の作品「ミュージアム」(主演:小栗旬)は、雨の日に起こる猟奇殺人を追う刑事と犯人との壮絶な駆け引きの映画だ。

映画の内容はともかくとして、その映画の英語タイトルに目が行く。

THE SERIAL KILLER IS LAUGHING IN THE RAIN. ”

邦題タイトルの「ミュージアム」は猟奇殺人を衆人に晒すという犯人の残虐性から来るタイトルだが、英語タイトルはどちらかというと「雨」というストーリーのキーワードに触れたタイトルで、なるほどな、と思った。


さて、このタイトルを見た時に思ったことは、かつてニール・セダカのヒット曲で雨の歌がこんなタイトルだったな、と。(・・・全然映画と関係ないんだけどね)

邦題「雨に微笑を」、“LAUGHTER IN THE RAIN”である。

のどかでおおらかなポップスの大ヒット曲である。

のどかでおおらかなミドルテンポの具現化したものこそニール・セダカ私が最初にこの歌に触れたのは、小学生の頃に弾いたエレクトーンでのこと。譜面の端に記載されたアーティスト名を見るとニール・セダカとある。

私は、小学生ながらエレクトーンを弾いていたおかげで1950年〜1970年あたりのアメリカンポップスは熟知していた。だから、その曲の制作者にニール・セダカとあることにビックリしたのだ。

なぜなら私の中のニール・セダカ像は、「おお!キャロル」「カレンダーガール」や「悲しき慕情」といった脳天気なアメリカンポップスの人というイメージだったからで、白人の作り出す重厚なオーケストレーションや軽やかなピアノのタッチ、ロックンロールのビートなど古き良き時代の音を具現化したものこそ彼の持ち味という印象があったからだ。

そして、後日「雨に微笑を」のヴォーカル入りを聴いた時に再び驚いた。

なんと、柔らかなヴォーカルなのか。女性が歌っていると錯覚した人も多かったのでは無いだろうか。そこにはニール・セダカのやさしい高音が心地良く響いていた。


1950年代から1960年代中盤まで、アメリカの古き良きポップスはニール・セダカやポール・アンカ、当時作曲家デビューした新進気鋭のキャロル・キングなどが活躍するゴールデン・エラがあったのだ。

アメリカは太平洋戦争に勝利し、朝鮮戦争を終え、ゆったりとした時間が流れていた時・・・そこにはまだベトナム戦争も始まる前の裕福なアメリカがあり、急速に発達した楽器(エレクトリックギターやベース、電子オルガンなど)で、どんどん新しい音楽やビートが生まれていった。

シナトラがスウィングしながら軽やかに歌い、若手のプレスリーが新しいビートを刻む。アメリカンポップスが一番輝いていた時かもしれない。

しかし、その輝きもビートルズやローリング・ストーンズの登場で音楽地図が塗り替えられていった。第一次ブリティッシュ・インベイジョンの到来だ。シンプルな力強いビートと下世話な歌詞にティーンエイジャーは狂喜乱舞し、大人たちは眉を顰めた。

あんな髪の長いヒッピーのような男が鶏を絞めたような声で叫んでいるものが音楽なのか、と。

そして、その激流(ブリティッシュ・インベイジョン)はあっさりとアメリカンポップスを飲み込んでしまい、ポール・アンカやニール・セダカは一気に時代遅れの音楽に成り下がってしまった。

それからというものニール・セダカは、ブリティッシュ・インベイジョンに影響を受けたアメリカ版ビートルズであるモンキーズに曲を提供するといった皮肉な仕事もこなし、ドサ回り公演を経験するまで落ち込んで行った。

ひと晩39ドルでピアノを弾くという仕事まで請けた大スターは、再起を誓いつつ家族とともにイギリスに渡ることとなる。そのサポートをしたのがエルトン・ジョンであり、そこから起死回生の大ヒット曲が1974年に生まれた。

かつて自分を栄光の座から引き摺り下ろしたイギリスの音楽シーン・・・そのイギリスで再起の芽を掴んだニール・セダカ。

因みにこの「雨に微笑みを」はハリッウッド録音で、若手実力ミュージシャンだったラス・カンケル(Dr)、リー・スクラー(B)、ダニー・コーチマ(G)、ディーン・パークス(G)、ジム・ホーン(Brass)がバックを固めている。上質で丁寧なつくりだ。

LAUGHTER IN THE RAIN


Strolling along country roads with mybaby
It starts to rain, it begins to pour
Without an umbrella we're soaked to the skin
I feel a shiver run up my spine

I feel the warmth of her hand in mine

Oo, I hear laughter in the rain,
walking hand in hand with the one I love.
Oo, how I love the rainy days
and the happy way I feel inside.

After a while we run under a tree.
I turn to her and she kisses me.
There with the beat of the rain on the leaves
softly she breathes and I close my eyes.

Sharing our love under stormy skies

Oo, I hear laughter in the rain,
walking hand in hand with the one I love.
Oo, how I love the rainy days
and the happy way I feel inside.


突然の土砂降り・・・

冷たい雨の中、君が僕の手を包む

愛する人と行けば、こんな雨だって素敵なものさ

雨に微笑みを・・・

幸せは近くにあるものさ


雨は様々な苦難に書き換えられる。

突然襲ったブリティッシュ・インベイジョンに耐えながら・・・。

しかし、愛する家族は彼を応援し続け、彼は再起を果たす。

歌詞だけを見るととても甘いラブソングだが、そこにはニール・セダカの生き様が記されている。

一番の苦境に立ったときにこんなに優しいメロディーをあの柔らかいヴォーカルで歌うことができるミュージシャン。

だから、今でも現役でステージに立つことができるのだ。

音楽家生活60年を超えるレジェンドである。

妙な内容の映画から想起した素敵な歌の紹介でした。

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2017年5月31日
花形


by yyra87gata | 2017-05-31 16:29 | 音楽コラム | Comments(0)