音楽雑文集


by yyra87gata

バンドホテル・・・ブルーズ



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1970年代は、松田優作のハードボイルドの時代だ。テレビドラマの破天荒な刑事役や東映の遊戯シリーズ、そして角川映画「蘇る金狼」で昇華する。

「気をつけろよ、刺すような毒気がなけりゃ、男稼業もおしまいさ。」こんないかしたキャッチコピーは松田優作しか似合わない。

1980年代からは鈴木清順や森田芳光などと組み、人間ドラマの新境地を開いていくが、私はクールで熱い狙撃者としての優作の方が好みである。

だから、尖った演技に通じるものがある彼の音楽活動にも興味があったし、そんな雰囲気一発で決める彼の唄るスンY TONK BLUES         も含めてファンであった。

神奈川県の地方局であるテレビ神奈川。

地元の企業や店舗のローカルCMが頻繁に流れているが、その中で私の中学時代によく流れていたCMは「横浜シェルガーデン」というライブレストランだった。

ライブを楽しみながら食事を取るという内容だったので、金の無い私には縁遠い所であったが、ライブスケジュールを「Player」誌で確認するとかなり有名どころの名前も挙がっていたので、興味本位で行ってみたことがある。

山下公園の外れ。マリンタワーの近くにそのライブレストランはあった。隣はバンドホテル。いや、正確に言うとバンドホテルの別館に造られたライブハウスが「横浜シェルガーデン」なのだ。

バンドホテルはホテル・ニューグランドと並ぶ横浜の有名なホテルである(であった)。

趣深い外観を持ち、創業は1929年。戦時中は同盟国であったドイツ軍専用のホテルであり、敗戦後はアメリカに接収された。

接収が解かれた後は、その雰囲気から数多くの映画やドラマの舞台になった。また、淡谷のり子の「別れのブルース」、五木ひろしの「よこはま・たそがれ」、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」はバンドホテルが舞台となって制作されたといわれているほど愛されたホテルである。そんなバンドホテルを松田優作は定宿にしていたという噂もあったし、そんな雰囲気の良い場所でライブも観ることができるのかという期待で訪ねた記憶がある。もちろん松田優作を観るためである。

1984年初夏。横浜国大の学園祭でシーナ&ロケットを観た時、配付されていたフライヤーに「松田優作with X・横浜シェルガーデン」の文字。

私は、期待に胸膨らませ、横浜シェルガーデンに向かった。

デートで山下公園を歩くと、港と雰囲気の良いホテルが絵になって、気分も高まったものだが、松田優作を観るために横切る山下公園は確か男友達と行った記憶がある。

古ぼけた洋館の佇まいを奥に見て、その雰囲気に飲まれそうになりながら会場に入ると思っていたより狭い空間に驚いた。

テレビCMではゆったりとした空間で料理に舌鼓を打ちながらラテン系のバンドが楽しそうに演奏している映像だった気がするが、目の前の空間は新宿ロフトのような殺風景な空間に見えた。

優作はバーボン片手にふらふらと現れ、ブルースを歌った。


ひとり飲む酒 悲しくて 映るグラスは 

ブルースの色

たとえばトム・ウェイツなんて聴きたい夜は YOKOHAMA HONKY TONK BLUES


隣で聴いていた黒人の米兵が奇声を上げて喜んでいた。

彼は優作の不安定ながらも味のあるヴォーカルを神の声と讃え、国の母親に聴かせたいと言っていた。

男は「ブルース」をしゃがれ声で「ブルーズ」「ブルーズ」と繰り返す。

そうか、ブルーズなのかと思い、それから私は背伸びして「ブルース」を意識して「ブルーズ」と言うようになった。

バンドホテルはブルーズが似合う。

朽ち果て方もいかしていた。

そんな別館のライブスポットで優作を観ることができた幸運。

後にも先にも彼のワンマンライブを観たのはこの時だけ。

だって、その5年後には帰らぬ人となってしまったから。


 あなたの影を 探し求めて ひとり彷徨っ 
た この街角

本牧あたりの昔の話さ YOKOHAMA 

HONKY TONK BLUES


革ジャンはおって ホロホロトロトロ バー

ボン片手に 千鳥足

ニューグランドホテルの灯りがにじむ セン

チメンタルホンキートンク・マン


ひとり飲む酒 わびしくて 映るグラスは 

過去の色

あなた恋しい たそがれの YOKOHAMA 

HONKY TONK BLUES

        

バンドホテルが解体された後はドン・キホーテが建ち、時代に飲まれたんだなという感慨に耽ったが、それも今では無くなり、東京オリンピックを見据えた大型商業施設が建築中である。

そんな建築現場に建つとブルーズだなぁと感じる。

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2017年11月24日
花形

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by yyra87gata | 2017-11-24 20:17 | 音楽コラム | Comments(0)