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ジャクソン・ブラウンとの出会い

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MTVがまだ世に出る前、ビデオ上映会という催しが渋谷や新宿のビルの一室ではしばしば開催されていた。

ツェッペリンやウッドストックのように映画作品として上映されているものではなく、そのほとんどは海外のビデオを直輸入し、50人ほどの規模の上映会であった。

その中で記憶に残っている作品に1979年の『ノーニュークス・コンサート』がある。

最近このコンサートの神がかったスプリングスティーンの出演部分がデジタルリマスターされ蘇っているニュースを耳にしたが、僕は熱いスプリングスティーンよりもジャクソン・ブラウンの方が心に残っていた。

 ちょうどこのフィルムを観た時期はジャクソン・ブラウンがニューアルバム『愛の使者』(1983)を発表した頃で、シングルヒット「誰かが彼女を見つめてる(Somebody’sBaby)」もヒットしていたこともその一因か。

そう、僕がジャクソン・ブラウンに初めて触れたのはこの頃で、名盤『レイト・フォー・ザ・スカイ』(1974)でも『孤独なランナー』(1977)でもない。それはすべて後追いだった。

 何故、『ノーニュークス・コンサート』での彼が印象的だったか。それは、ギャップ。

あの頃、美少女と呼ばれる女優がスクリーンを賑わしていた。

ブルック・シールズ、ソフィー・マルソー、ダイアン・レイン、メグ・ライアン・・・中でもフィービー・ケイツは青春映画「初体験リッチモンド・ハイ」で健康的な色気で人気が出ていた。その映画の主題歌「誰かが彼女を見つめてる(Somebody’s Baby)」をジャクソン・ブラウンが歌っており、その印象があの映画にシンクロしていたのだ。軽い8ビートを歌うシンガーを想像していたのだが、目の前の小さなスクリーンに映し出されたノーニュークス・コンサートのジャクソン・ブラウンは、ボブ・ディランのような孤高な印象ではなく、また、ブルース・スプリングスティーンまでの躍動感も感じられない。しかし、歌の一節一節が心に刺さるような感覚に陥る。軽く歌っていた「Somebody’s Baby」は何だったのか・・・。

その足でニューアルバムの『愛の使者』を購入。サウンド的には明るい歌も、ロックンロールも収録されていたが、歌の本質として当時のレーガン政権を揶揄した作品と知ったのは、次作の『ライヴズ・イン・ザ・バランス』(1986)を発表した時、本人がインタビューに答えていた時だった。

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「『愛の使者』にも政治的な歌はあった。米ソの問題に対する人々の態度を皮肉ったつもりだったが、殆どの人に気づいてもらえなかった。それで、みんなにわかってもらうためには皮肉ではだめだ。もっと直接的な言葉で歌わなければ・・・」

ノーニュークス・コンサートは文字通り反核の運動である。ジャクソン・ブラウンはジョン・ホールやグラハム・ナッシュと共に運動を進めていく。時に原発反対のデモに参加して2回逮捕されたとも伝えられた。こうした行動から生まれた『愛の使者』であったが、不完全燃焼に終わり次作へと引き継がれていく。

『ライヴズ・イン・ザ・バランス』はアルバムジャケットからして問題をはらんでいた。

アメリカの象徴である自由の女神が何本もの線に囲まれている。それは補修工事のようであるし、檻のようにも見える。

ジャクソン・ブラウンはわかりやすい提示をしたのだ。かつてのゴールデンエラのアメリカはそこには無く、原発、移民、中米への関与・・・確実に病んでいると。

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1987114日新宿厚生年金ホールでのジャクソン・ブラウン。

「フォー・アメリカ」(『ライヴズ・イン・ザ・バランス』1曲目収録)の後に「プリテンダー」を歌った。そして、MCでは、

「アメリカのために生きてきたと歌ったが、それはある意味真実で、そういう風に育てられた。しかし、大統領が先頭に立って真実を隠そうとする今・・・少し前に作ったプリテンダー・・・つまり、何か偽りのふりをしながら生きていくということに、疑問を持つことになった。それはあくまでも個人的なプリテンダー※だったはずが、いつの間にか生活の中でのプリテンダーになっている危機感を感じたのだ・・・」と訥々と話していた。

「個人的なプリテンダー」とは1976年当時最愛の妻を亡くし残された子供とこれからどう生きていくかを歌にした。「プリテンダー」の歌詞にはミュージシャンという詐称者(プリテンダー)として子供と生きていく、といった内省的な歌詞になっている。)

 青春映画「初体験リッチモンド・ハイ」のテーマソングで知ったジャクソン・ブラウンだが、知れば知るほど言葉を大事に紡ぐ「詩人」であることが分かった瞬間だった。

耳障りの良いサウンドで落ち着いたバラードが心地よいジャクソン・ブラウンだが、歌詞は年を経るごとにシンプルになり、過激にもなる。

『ライヴズ・イン・ザ・バランス』の次作の『ワールド・イン・モーション』(1989)も政治色が強い作品。

普遍的な愛のアルバムは『アイム・アライブ』(1993)まで待つことになる。

「誰かが彼女を見つめてる(Somebody’sBaby)」から10年。

彼の作品の中ではあまり目立たない『愛の使者』と『ライヴズ・イン・ザ・バランス』の思い出。

そういえば、新宿厚生年金でコンサートを観た帰り、ジャクソン・ブラウンのバックミュージシャンが同じギター(ESP製)を使っていたから嬉しくなって早く家に帰って弾こうと思っていたら、焦っていたのかバイクでこけて骨折したんだった。

結局ギター弾けなかった・・・。それも思い出。

20211012

花形


by yyra87gata | 2021-10-12 19:22 | 音楽コラム | Comments(0)