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渡辺貞夫 『How’s Everything』

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渡辺貞夫。世界のナベサダである。

学生時代によくコンサートに足を運んだ。六本木PITINNや新宿厚生年金ホール、よみうりランドEASTのイベントなど。一時期ハマって観ていたのだ。

ナベサダは、現在89歳。まだまだ現役でツアーをしている。サックスやフルートといった肺活量を使う楽器で、ちゃんとコンサートをしている・・・やはり世界のナベサダだ。

ナベサダのステージはいつも誠実だ。

観客に対する姿勢、一緒に演奏するミュージシャンへのリスペクトがナベサダの温かいMCから感じ取ることが出来る。

私は中学生の頃、ナベサダをテレビCMで初めて見た。スクーターや男性化粧品の宣伝に出てくる笑顔の素敵なオジサンと言う印象。世界的に有名なジャズサックスプレイヤーなんて1ミリも思わなかった。

「カリフォルニアシャワー」の音楽をバックにナベサダと草刈正雄がニコニコ笑っているCMを観ていた時、母親が「ナベサダも歳とったわねー」なんて呑気に言った一言が妙に心に響いたのだ。

え?ナベサダってあの渡辺貞夫?このおじさん?・・・が第一印象。

中学のブラスバンド部の友人がカセットテープに録音してくれたナベサダの演奏。

4ビートやブラジリアン、フュージョンぽい音楽がミックスされたテープだったが、「とにかく有名なミュージシャンだから聴いてみな」という一言。

それまでジャズなんて聴いたことも無く、習っていたエレクトーンでジャージーな曲があったから参考にでもなるかと思い、友人に録音を頼んだ程度。

そして、その落ち着いた4ビートやお洒落なボサノバの演奏をしていた人は、テレビの中でニカッと笑っていたのだ。

私は大学に入り、六本木PITINNに頻繁に出入りするようになると、ナベサダが毎年恒例にしている「クリスマスコンサート」なるものがあることを知る。

1985年、1986年と2年続けてこのコンサートを観覧したが、リラックスした中にも神がかった演奏が繰り広げられた。

1985年は、ウェザーリポートのメンバー、ビクター・ベイリー(ベース)、ミノ・シネル(パーカッション)のコンビにマーカス・ミラーのバンドで有名なプージー・ベルのドラムが強烈なグルーブを作る。ギターのボビー・ブルームもケニー・バレルと演奏経験もある実力派。

かなりハードな演奏で、レコードで聴いてきた穏やかなナベサダではなく、ジャズファンクというシーンもあった。

ここで、注目したいのは、ナベサダとバックを固める外国人ミュージシャンとの歳の差。ナベサダは1933年生まれ。バックメンバーは1960年前後。30歳の差。1980年代中半、世の中はデジタルな音楽が鳴り響く中、ナベサダも新しい音を追求していたのかもしれない。あのマイルスだって80年代の作品はアバンギャルドの塊だった。だから、一流のミュージシャンは音楽という共通言語で、国や性別、年齢の差など飛び越えていったのだと思う。

1986年はサンタナやウェインショーターバンドのベーシスト、キース・ジョーンズやスティールドラムの名手アンディ・ナレル、後にグラミー賞のベスト・フュージョン・パフォーマンス部門を受賞するウィリアム・ケネディーといった実力派で固められた。この年はアンディ・ナレルのスティールドラムがかなりフューチャーされたステージだったのでブラジリアンな音楽の印象がある。

クリスマスコンサートは六本木PITINNが立ち見満杯になるほどの盛況ぶりで、ミュージシャンも見学に来る。野次を飛ばしているのは大抵ミュージシャンで、ナベサダはニコニコしながら宇都宮弁で応えている。

「今日はいつもより外野がうるさいね(笑)」(イントネーションは文字にできない)

ナベサダは我々日本人に数多くの海外のミュージシャンを紹介してくれた。ナベサダから教えられた海外のミュージシャンは数多いし、彼らを来日させ、生の演奏を聴かせてくれた。1980年代に入ると海外録音をする日本人ミュージシャンはジャズに限らずポップスでも多くなってきたが、日本でツアーをする海外ミュージシャンは意外と少ない。その意味でも世界の一流のミュージシャンを観に行くというのもナベサダのコンサートの楽しみでもあった。

特に中学の時に友人に作ってもらったカセットテープには丁寧に演奏ミュージシャンも記載してくれたから、その時からの知識で、そのミュージシャンが来日するとなると心が弾んだ。

チック・コリア(P)、スティーブ・ガッド(Dr)、ロン・カーター(B)、トニー・ウィリアムス(Dr)、リー・リトナー(G)、チャック・レイニー(B)、デイブ・グルーシン(P)、ハービー・メイソン(Dr)あたりは、ナベサダで初めて聞いたミュージシャンだ。

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 特に1980年発表の『How’s Everything』は日本武道館公演を収録した2枚組アルバム。

スティーブ・ガッド(Dr)、リチャード・ティー(Key)、デイブ・グルーシン(Key)、エリック・ゲイル(G)、アンソニー・ジャクソン(B)といったプレイヤーに東京フィルハーモニー交響楽団を加えた豪華なコンサート。このアルバム、日本では契約の問題で発表されなかったので、輸入盤という形で手に入れた記憶がある。

とにかく、このアルバムでの演奏はデイブ・グルーシンのアレンジとオーケストレイションを融合させた傑作であることは間違いなく、オーケストラが伴奏側になりがちなジャズやポップスでの扱いに反し、しっかりと主張もしているのだ。

そこにナベサダの艶のあるサックス。これはもう世界のナベサダ。決して「世界のナベアツ」ではない。

 89歳のナベサダ。やっぱり鬼籍に入る前に観に行かなければならないなぁ。

2022912

花形


Commented by ジン at 2022-09-18 14:47 x
以前に、拓郎の篠島アイランドコンサートのブログにコメントした者です。
私も貞夫さんずっと聞いてました。
How’s Everythingも懐かしい。
スタッフのバックも素晴らしいのですが、私はエイブラハム・ラボリエルとの演奏が好きでした。
今回も嬉しいブログをありがとうございました。
Commented by yyra87gata at 2022-09-18 19:15
> ジンさん

コメントありがとうございます。
1987年の『バーズ・オブ・パッセージ』から1991年の『スウィート・ディール』あたりですよね。
この頃ってブラジリアンなアルバムも2枚発表してますが、ジェフ・ポーカロとかマイケル・ランドゥ、ポール・ジャクソンJr.なんてロック寄りなミュージシャンとプレイしてましたね。
ホント、色々なアルバムを聴いていると貞夫さんは音楽というか人間の器のでかい人だと思います。
by yyra87gata | 2022-09-12 13:38 | アルバムレビュー | Comments(2)